書に耽る猿たち

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『サロメ』原田マハ/破滅するほどの愛が美麗で狂気な絵に

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サロメ原田マハ

文春文庫 2020.6.21読了

 

書の一場面を独自にアレンジした『サロメ』は、オスカー・ワイルド氏による戯曲である。本当は、先に読むなり知識を深めてからこの小説を読むべきだったかなと思う。しかし、プロローグにて詳細に概要が語られているため、スムーズに物語に入り込めた。原田マハさんといえば、自らのキュレーター(欧米の美術館や文化施設における専門職)の経験を活かし美術ミステリ等を執筆することが多く、ほとんどの小説で導入部が現代の設定で、そこから過去に遡ることが多い。

ーブリー・ビアズリーさんの作品も名前も、私は知らなかった。最初に表紙を目にした時は、なんとなくグスタフ・クリムトさんとエドワード・ゴーリーさんの絵を足して割ったような印象を受けた。白と黒の2色のペン画なので、切り絵のようにも見える。確かに、観る者を虜にする。美しいけれど鋭く、狂気を感じる。

曲『サロメ』の英語版が、オスカー・ワイルド/作、オーブリー・ピアズリー/画である。時の異端児ワイルドよりもむしろ、挿絵を提供したビアズリーのほうが注目された。ワイルドと共に共犯関係となった2人を、オーブリーの姉であるメイベル・ビアズリーが語り手となる小説である。実在の人物と残された歴史を基に、原田さんが極上の美術ミステリに仕上げた。

僕は、誰にも目に見えないものを描いている(147頁)

ーブリーは目に映るものを描くのではなく、感じたものを描く。作中にオーブリーの絵は挿入されていないが、原田さんの文章をもってしてオーブリーの作風やそこからほとばしる凶器と血生臭い香り、そして哀しみが感じ取れる。私は元々、文章から絵を想像するのが好きだ。

のメイベルは、小さい頃オーブリーと同様に絵に興味を持っていた。しかし、当時は「絵を描くことは女が進んですることではない」という通念が一般的だったそう。確かに、絵画の世界で名を馳せている人はほとんど男性だ。女性は芸術分野に簡単に踏み入れられなかったのだ。メイベルの異常なまでの弟への愛と束縛故にこの結末になったような気がしなくもない。

田さんの美術への深い造詣と、美術を心から愛する気持ちが感じられた。原田さんの作品は4〜5作しか読んではいないが、個人的には今まで読んだ中で一番好きかもしれない。美術だけでなく文学にも関わりがある話だからか。それにしても、オスカー・ワイルド氏の、なんと危険な魅力と才能を兼ね備えた人物なことよ。

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