書に耽る猿たち

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『小説8050』林真理子|引きこもりっていう言葉が良くないよ

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『小説8050』林真理子

新潮社[新潮文庫] 2024.05.05読了

 

本大学アメフト部の問題はその後どうなったのだろう。日本大学理事長となった林真理子さんは、昨年末、副理事長に辞任を強要するなどしたとして提訴されているが、その後進捗は不明だ。女性として初の理事長ということで応援していたし、彼女の強さと潔さ、そして彼女が描く小説世界は、特に同性の圧倒的な支持を受けていることは間違いない。

 

イトルにある「8050」とは「8050問題」のことを示している。つまり、80代の親が50代の子を支えること。子どもの引きこもりが背景にあるという現代の問題を意味する。具体的にその問題に直面したストーリーではなく、今後そうなってしまう恐怖を見据え、そうならないために動いていく家族の物語である。誰が考えたんだか知らないけど、そもそも「引きこもり」っていう言葉が良くないよなぁ。

 

科医である大澤正樹とその妻は、7年間引きこもりになっている今20歳になる息子・翔太のこの先を案じていた。息子と向き合う決意をした正樹はある提案をする。

 

親や弁護士のあまりの変貌ぶり、「こんな偶然があるかいな」と思うほどの急すぎる突飛な展開にちょっとやり過ぎ感が強かったけれど、、ぐいぐい読ませるストーリーテリングはさすがである。社会派エンタメ小説で、テレビドラマにしたらおもしろそうかな。

 

切なのは、裁判に勝つことでも加害者に謝らせることでもなくて、親子が、家族がわかりあうこと。世間体ばかりを気にしてしまうのは誰もが持っている感情だが、本当に大切なことを見失わないように生きていくことが大事だと改めて思った。