書に耽る猿たち

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『美しき愚かものたちのタブロー』原田マハ / 優れた芸術作品を世に広める人たち

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『美しき愚かものたちのタブロー』原田マハ

文藝春秋  2019.9.8読了

 

京、上野にある国立西洋美術館で現在展示されている「松方コレクション」を観る前に、読んでおこうと思った。おそらく、この本も展示に合わせて発売されたのだろう。日本に、西洋の優れた絵画を持ち帰り西洋美術館を造りたい、その一心でフランスで絵画を買い漁った松方幸次郎。松方と、西洋美術家の田代雄一との絵画(タブロー)を追い求める情熱を描いた、事実に基づくフィクションである。

方幸次郎といえば、実業家であり有名な美術コレクターであるということしか知識になかった。内閣総理大臣を務めた松方正義の三男であり、裕福な家庭で小さいころから才能を発揮し国際感覚を養い、川崎造船所の創業者に見初められ、社長になり手腕を発揮する。その後、西洋美術に魅せられ、日本にも西洋美術館を造りたいという情熱を持って駆け巡る。まぁ普通の家庭で生まれていたらまずあり得ない生涯である。そんな彼と同じく美術に魅せられ、そして松方本人にも魅せられて美術品の目利きをする田代とのタブローへの情熱がうかがえた作品だった。

れた芸術は、その作品や作者が主役であるが、その作品が優れていることを広める人物がいないと埋もれてしまうだけだ。だから、この本でいう松方さんのようなコレクターや美術家が、脇役とはいえ大事な役割を担ってる。同じ原田マハさんの『たゆたえども沈まず』でゴッホの弟、テオの献身的な姿を思い出した。原田さんも、本当に美術が好きなんだなと彼女の小説を読むたびに関心するし、小説によって優れた美術や芸術の素晴らしさを広めている側の人物だ。

年のお正月に、岡山、倉敷旅行で訪れた大原美術館が日本で最初の西洋美術館だったとは。今でこそ、人気がある西洋絵画は、街にも溢れているため何とも思わないが、出来た当時は西洋風の造りの建物や、西洋の絵画が集められた館内は訪れた見物客を驚かせたであろう。建物も古く、旅行シーズン以外は閑散としているとは思うが、なくなって欲しくないと切に願う。

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れから、先日読んだ辻邦生さんの『春の戴冠』が蘇ってきた。ボッティチェルリの作品が作中に登場したのだ。花の都フィレンツェと共に生きたボッティチェルリの絵と生き様がまざまざと思い出された。近しく体験した物事が、読んだ本の中で現れることはままある。自分が見てきたもの、読んだものが、どこかで密かに繋がっているのだなと改めて感じた。

honzaru.hatenablog.com 

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週の3連休を使って、「松方コレクション展」を観にいく予定だ。クロード・モネの『睡蓮』、フィンセント・ファン・ゴッホの『アルルの寝室』は以前観たことがあるけれど、また違った想いで鑑賞できるであろう。