書に耽る猿たち

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『説得』ジェイン・オースティン|その時はそうするしかなかった決断

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『説得』ジェイン・オースティン 廣野由美子/訳 ★★

光文社[光文社古典新訳文庫] 2024.05.13読了

 

ェイン・オースティンの小説って、同じようなテーマ(ずばり結婚)ばかりだし、ストーリーも動きが少ないのにどうしてこうもおもしろく読めるんだろう。個人的に無類のイギリス文学好きというのもあるけれど、いや~良かった。じわりじわりぐずぐずと、遅々として進まない展開に退屈さをおぼえ人もいるだろうけれど、むしろこんな日常の話なのにおもしろく読めるってすんばらしいことだと思う。久しぶりに読み終えたくないと思える読書体験。

 

ン・エリオットとフレデリック・ウェントハースは、8年前に相思相愛であったが、亡き母親の友人でありアンが尊敬するレディー・ラッセルの説得に屈して別れることになった。これは正しかったのか?自分の気持ちに正直になって自分自身で決断すべきだったのではないか?

 

ェントハースは、アンを許せなかった。彼女は自分に対して随分ひどい扱いをした。それはつまり「アンは他人の言うなりになって、彼のことをあきらめたのだ。強引に説得されて、折れたのだ。弱さと臆病のせいで、ああいうことになったのだ(124頁)」と、アンが自分の意志を貫かなかったことに憤りを感じているのだ。

 

イトルになっている「説得」は、得てして悪い意味合いというか、相手を納得させるように諭す意味で使われることが多い。営業マンがお客様に商品を買わせるために「説得」したとか、なんとか上司の許可を得ようと「説得」したりとか。しかし説得にも悪い説得と良い説得がある。それに、その時はそうするしかなかった説得もあるだろうし、結果的に何が正しかったのかなんてわからない。そしてその「説得」を受け入れるかどうかは自身の決断に他ならない。

 

会した2人の恋愛の機微が細やかに描かれている。今であればスマホで簡単に連絡を取り合ったりSNSで相手の動向をさぐれたりするのに、当時は相手の気持ちを遠くから知ることができなかった。偶然の出会いを奇跡のように感じ、「待つ」という時間が愛を育むのだ。これはこれで素敵だよなぁ。2人以外にも登場する人物すべての人間模様が生き生きと描かれていて魅了される。

 

ースティンはなかなかの皮肉めいた考えを持っていて、それを小説中に存分に表現しているのがおもしろい。まだ『エマ』と『ノーサンガー・アビー』は未読だが、今のところオースティン作品ではこの『説得』が一番好きかも。

 

つも思うけれど、光文社古典新訳文庫のラインナップは神すぎる!登場人物紹介の栞と各頁にある注釈もわかりやすい。そして廣野由美子さんの訳がまぁ素晴らしかった。人生で好きな小説のトップ10に入るジョージ・エリオット著『ミドルマーチ』をまた読みたくなった。これも廣野さんが訳されているし、何より名作!傑作!なので、未読の方は是非に。

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