書に耽る猿たち

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『オリヴァー・ツイスト』チャールズ・ディケンズ/生まれ育った環境にも屈しない善良な心

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『オリヴァー・ツイスト』チャールズ・ディケンズ    加賀山卓朗/訳

新潮文庫  2020.1.20読了

 

ギリスの小説は大好きである。ディケンズ、ブロンテ姉妹、サマセット・モームヘンリー・ジェイムズが描くような、古き良き時代の格調高い英国の雰囲気漂うものが。

児として救済院に預けられたオリヴァーは、葬儀屋に引き取られるがそこから逃げ出す。ロンドンにほど近い街で窃盗団の仲間に入ることになる。そこで窃盗を働いた2人の仲間の代わりに追いかけられたオリヴァーの姿は、まるで去年観た映画『ジョーカー』の冒頭、追いかけられるピエロ(アーサー)を連想してしまった。善良な者は、いつも騙されて汚名をきせられる。

罪を犯したり精神に異常を期して悪に手を染めてしまう者は、その人の生まれ育った環境、特に貧困や家庭問題が影響していると思っている。しかし、オリヴァーに関しては異なる。あんなに劣悪な環境で大きくなったにも関わらず、正直で無垢な心を持ち続けた彼。こうなると、流れている血みたいなものの影響も大きいのだろうか。どんなにすばらしく善良な両親から産まれたとしても、周りの環境が悪ければ自然と性格も曲がってしまうと思っていたのに。

ィケンズが描く主人公は、たいていこういう善の人物だ。ただ、この小説で出てくる悪役達の悪党ぶりは惚れ惚れするほどだ。際立った個性と豊かな人物造形、そして悪役達のセリフのやり取りが物語に拍車をかけるようだ。まさに英国雰囲気漂う、正統派の勧善懲悪物語だった。

まさにイギリスは、ヘンリー王子とメーガン妃の王室脱退がニュースを騒がせている。英国は昔ながらのしきたりや伝統を重んじているから、エリザベス女王の心中を思うと少し心痛むが、時代が変われば、伝統や文化も移り変わることはやむを得ないのかもしれない。