書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『手のひらの京』綿矢りさ/目に見えない土地の力

f:id:honzaru:20200121082232j:image

『手のひらの京(みやこ)』綿矢りさ

新潮文庫  2020.1.22読了

 

んとなく手にして読んだ本。作者の綿矢さんがまさに京都出身で、初めて京都を舞台にして書いた小説だ。私が初めて京都に行ったのは中学生の時の修学旅行。その後も何度か訪れて、他の人と違わず私も京都の佇まいが大好きなのだが、最近はどこに行っても観光客ばかりでちっとも落ち着いて楽しめない。京都に限らないけれど、旅行過多で本来の旅の楽しみ方ができなくなっているようで、なんだか淋しくなる。

都に住む三姉妹が主人公の物語。長女の綾香、次女羽依(うい)、三女凛。性格だけでなく人や社会への接し方も異なる3人だが、決して仲は悪くなく理解し合い助けあける仲。なんだがいいな、と思う。1人だけ独立心が旺盛で過敏な神経を持つ末っ子の凛は、綿矢さんの気持ちに1番近いのだろうか。

1人家を出て東京で働きたいと言う凛に対して、「京都には独特の力」があると父は言う。京都は平安京の時代から守り神がいて人の力以上のものに守られている気がするのだと。その力を含めて京都の歴史を背負うことに凛は疲れたのかもしれない、と僅かに理解を見せる父。確かに、その土地ならではの目に見えない力は存在するのかもしれない。三姉妹の日常がゆっくりと流れ、その中でそれぞれが成長していく姿が描かれて、読了後は清々しい気持ちになる。

年前のテレビ番組で、確か朝井リョウさん、村田沙耶香さん、綿矢りささんの対談を目にした。その時に綿矢さんは「書く」ことが苦手だと言っていた。だから、もしかしたらもうあんまり小説は書かないのかな?と思っていたのだが、少しづつは書いているようで嬉しい。去年刊行された百合系の小説『生のみ生のままで』が気になっている。綿矢さんは、女性(それも大多数の女性)の気持ちを表現するのが抜群に上手いから、今後も読んでいきたいと思う作家の1人だ。綿矢さん自身が歳を重ねることで、若い女性だけでなく、年老いた女性の姿をどんな風に書くのかが楽しみである。