書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2024-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『台北プライベート・アイ』紀蔚然|台北を感じながら、愛くるしいこの私立探偵を応援する

『台北プライベート・アイ』紀蔚然(き・うつぜん) 舩山むつみ/訳 ★ 文藝春秋[文春文庫] 2024.06.20読了 単行本刊行時から気になっていた本がついに文庫本になり早速ゲットした。どうやら第二弾が刊行されたのでそれにあわせてこの第一弾が文庫化された…

『サラゴサ手稿』ヤン・ポトツキ|半分寝ながら読むような心地、そしてようやく読み終えたという達成感

『サラゴサ手稿』上中下 ヤン・ポトツキ 畑浩一郎/訳 岩波書店[岩波文庫] 2024.06.17読了 サラゴサとは、スペインにある街で2000年以上の歴史があるらしい。手稿とは、手書きあるいはタイプライターで打った原稿(ウィキペディアより)のこと。この小説の…

『余命一年、男をかう』吉川トリコ|お金はなんのためにあるのか、自分はなんのために生きるのか

『余命一年、男をかう』吉川トリコ 講談社[講談社文庫] 2024.06.08読了 衝撃的なタイトルである。「男をかう」って「買う」ということなのかと最初思ったけれど、もしかしたら「飼う」のかもしれないな。トリッキーな感じでいつもなら読まないタイプの小説…

『関心領域』マーティン・エイミス|強制収容所に関わる人たちとその日常

『関心領域』マーティン・エイミス 北田絵里子/訳 早川書房 2024.06.05読了 アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した同名映画の原作である。作品賞を受賞した『オッペンハイマー』の原作を読み、そのあと映画を鑑賞した(本を読んでないと理解に苦しんだかも…

『仮釈放』吉村昭|更生の意味、保護司のあり方

『仮釈放』吉村昭 ★ 新潮社[新潮文庫] 2024.06.02読了 つい先日、吉村昭さんの作品を読んだばかりだが、中毒性があるのかまた読みたくなった。本当は長崎を舞台にしたある小説を探していたが、書店にあったその文庫本の表紙が破れかけていた(こういうのは…

『うたかたの日々』ボリス・ヴィアン|ファンタジー、メルヘンの中にリアルがある

『うたかたの日々』ボリス・ヴィアン 伊東守男/訳 早川書房[ハヤカワepi文庫] 2024.05.31読了 メロディを奏でるような、美しく詩的な文体である。ここに書かれているものはどうしようもなく悲しく苦しい物語なのに、読み終えたときには散々泣き散らした後…

『ひとつの祖国』貫井徳郎|世界に後れを取っている日本のことを考えよう

『ひとつの祖国』貫井徳郎 朝日新聞出版 2024.05.29読了 ベルリンの壁のような東西を分断する「壁」こそないが、第2次世界大戦後に日本が東日本国と西日本国に分断され、その後統一されたという、ありえたかもしれない架空の日本が舞台となっている。西日本…

『死刑執行のノート』ダニヤ・クカフカ|アンセルの孤独、人生のままならなさ

『死刑執行のノート』ダニヤ・クカフカ 鈴木美朋/訳 集英社[集英社文庫] 2024.05.26読了 こういった海外の名前を知らない作家の本は、すぐに読まないと積読まっしぐらになるよなぁ。エドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)を受賞したこの小説の著者はダ…