書に耽る猿たち

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『オーラの発表会』綿矢りさ|飛び抜けて自由な綿矢さんの新世界

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『オーラの発表会』綿矢りさ ★

集英社集英社文庫] 2024.07.10読了

 

松子と書いて「みるこ」と読む。当て字なのかと思っていたら、どうやら「海松」には「みる」と読むこともあるようだ。海と松が一緒になるなんて乙だし、こんな名前だったら素敵だなと思った。しかしルビが振られていないところを読むときに「なんだっけ」と忘れてしまうから、途中から「みる貝のみる」と呪文のように確認していた。  

 

の海松子のキャラがかなりいい。趣味が枝毛を切ることと凧揚げ。そして他人のことを脳内あだ名で呼び、極め付けは口臭からその人が食べたものを当てるという特技を持つ。つまり、やばい奴なのだ!これは相当イカれてる!そして海松子の話し方がまたいい。友達にも親にも敬語で、それがいかにも真面目でおもしろい。こんな言い方する人いるか?笑 きっと棒読みなんだろうなと勝手に想像しながら読んだ。

 

松子のキャンパスライフ、初めての一人暮らし、恋愛模様がのんべんだらりと続いていてほんわかして、最後の方にはみんな海松子を好きになると思う。人を完コピする天才の友人萌音(もね)も憎めない。そして両親のあたたかい眼差しには心が和むし、家庭の大切さをしんみりと感じた。

 

庫本の帯に「綿矢ワールド全開」とあるけれど、私にはいつもの綿矢さんの世界とは違って見える。飛び抜けて自由に感じる。何よりもこの破天荒な海松子を主人公にしたこと。今までの作品の不器用だけどどこにでもいそうな繊細な主人公ではなく、1人でも生きていける海松子が頼もしい。人は1人でも生きていけるけれど、しかし一方で誰かと一緒に生きていくことも良いと伝えている。どちらが良いとかではなく、今の時代に相応しい小説だと思った。綿矢さんの作品の中で私は一番好きだな。

 

川賞を受賞した作家って、その後数冊は作品を出すけれど、いつの間にかいなくなってしまうことが多いのに、綿矢りささんや金原ひとみさんは長らくこの世界で活躍されていて本当にすごいなと思う。それだけ彼女たちの書くものには魂がこもっている。本人たちが時代に合わせて小説の書き方、表現方法を変えているのも最前線にいる理由の一つかもしれない。これからも読み続けよう。

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