書に耽る猿たち

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『マイ・ストーリー』ミシェル・オバマ/自分のことを知り、語り、相手を受け入れれば道は開ける

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『マイ・ストーリー』 ミシェル・オバマ  長尾莉紗・柴田さとみ/訳   ★★★

集英社  2020.1.18読了

 

界45言語で翻訳され、1千万部突破のベストセラー。前アメリカ合衆国大統領バラク・オバマ氏の妻、ミシェル・オバマさんの自伝である。現在のトランプ大統領の前までは8年間オバマ氏が大統領を務めた。初の黒人大統領だったこともあり世界から注目を集めていたが、その柔らかで落ち着いた表情と颯爽と歩くスマートな姿、そして力強いスピーチを目にする度に、私もオバマ氏に良い印象を持っていた。その妻のミシェルさん。写真の彼女のなんと輝いていることか。眩しいほどの自信と強さに満ち溢れている。

の本は3つの章に分かれている。1つめが“BECOMING ME”、ミシェルさんの幼少期から始まり、法律事務所で働きオバマ氏と出会うまでのことが書かれている。シカゴの貧民街で産まれた彼女は愛情溢れる家庭で育てられた。ファーストレディにまで上りつめた彼女も、中流階級の家庭に産まれて普通に暮らしていたのだ。聡明で負けず嫌いで几帳面な性格は幼少期から健在していたようだ。何より、愛のある両親がミシェルさんを形成したのだと感じた。オバマ氏と出会い付き合うまでのエピソードは、私もなんだかドキドキして楽しい気分になってしまった。

2つめの章は“BECOMING US”、オバマ氏と付き合うようになってから結婚、出産、そしてオバマ氏が第44代アメリカ合衆国大統領になるまでが書かれている。ミシェルさんは弁護士の仕事に留まらず、常に自分はこのままでいいのか?を問いかけて多くの職をこなしてきた自立した女性だ。プリンストン大学を卒業し、ハーバード大学ロースクールを出て法律事務所で弁護士になる、ここで成功したと満足する人がほとんどだと思う。そうではないミシェルさんの信念と行動力には敬服する。ただ、それ以上に上を行くのが愛したオバマ氏だったのだ。自分の将来を思い描くのではなく、深夜にふと考えていることが世界平和だというオバマ氏。そんな人周りに見たことも聞いたこともない。とんでもない人を伴侶にしたミシェルさんだが、彼女だからこそ選んだ相手でそして選ばれた人なのだと思う。愛する娘と4人で生活する一方で、選挙活動を行う期間の壮絶な戦いにおけるミシェルさんの悩みは、幼い子を持つ母親そのものだ。

後の章は“BECOMING MORE”、ファーストレディとしてオバマ大統領を支えながらも自分らしく生きた8年間のことが書かれている。世界で一番大きな影響力を持つアメリカ合衆国の大統領がどんな暮らしをしているか、私たちには計り知れない。激務の中でもオバマ氏は家族の時間を作り、そしてミシェルさんは常に2人の娘のことを気にかけていた。

スラム街生まれの黒人の女の子が名門大学に入り、卒業後はいくつもの幹部職を務め、ついにはホワイトハウスにたどりつくー確かに、私の人生の軌跡はかなり珍しいと言えるだろう。(中略)しかし私は徐々に気づきはじめていた。私の経歴の一番重要な部分は表面的な功績ではなく、それを支える土台、つまり、長年かけて私を鍛えてくれたものや、私に自信を抱かせてくれた人たちにあるのだ。(477頁)

人は自分だけでは生きていけず、周りの支えがあって始めて花開くもの。今まで自分を支えてくれた多くの人達に感謝を込めて、今度は若者たち、子供たちに自分がやってもらったことをしてあげようと彼女は心に決めたのだ。

シェルさんも普通の人間だ。私たちと同じように笑い、怒り、悩み、感動し、時に苦しみながら生きている。彼女は最後にこう言っている。

みんなでお互いを迎え入れよう。そうすればきっと、私たちは恐怖心をなくし、誤解を減らし、互いを不必要に隔てる偏見や先入観を手放せるはずだから。そうすればきっと、私たちはみな同じなのだという考えをうまく受け入れられるようになるだろう。(573頁)

人間は誰でも同じなのだ。肌の色も大きさも性別も国境も何も関係ない。毎日私たちが悩むことは本当にちっぽけで、もっともっと大きく広い視野で、そして相手を受け入れるような心を持つことが大事だ。そのために、自分を知ることが重要である。ミシェルさんは小さい頃から自己分析をして自分がどう思うのか?どうすればいいのか?どうしたら満たされるのか?を理解出来ている。これは実は簡単なようでいてほとんどの人が出来ていないと思う。

ちょうど個人的に、これからの人生について見つめ直すことがあった。なんだかこのタイミングで本書を読めたことは奇跡に近く、自分自身スッキリと出来た気がする。そういう意味でも私にとって大切な本となった。

伝といっても、小説のようにすらすら読めて、とても読み心地が良い。元々一代記のような物語が好きなこともあり、楽しく、時には涙しながら読んだ。勇気をもらえる本だ。そういえば、何かに書いてあった。人は誰でも1冊は本を書けると。自分の人生を書けばいいのだ。自伝でも、物語にしてもいい。彼女のように大きな波乱万丈な生き方ではなくとも、誰しもの生き様にはストーリーがあるのだから。