本が好きなら大抵の人が一度はハマったことがあるだろう京極夏彦さんの百鬼夜行シリーズ。中禅寺、榎津、関口、木場など懐かしの登場人物たちが勢揃い。ベストセラーを生み出した作家のほとんどは、何年も経つと筆が衰えてしまう。そんなの読者の勝手な期待であって本人からすると余計なお世話だろうけど、偉大な作家であればあるほど期待が高まってしまうのだ。
それでも、この作品は変わることなくおもしろかったのである。もう、まずは17年ぶりに刊行してくれたというただそれだけで満足している読者がほとんどであろう。相変わらず荒唐無稽ではある。映像化には全く向いてなくて、昔堤真一さん主演『姑獲鳥の夏』を観たときは、俳優陣が豪華とはいえズコーっとなったものだ。
戯曲作家の久住(くずみ)は、ホテルに缶詰めになり構想を練るがなかなか筆が進まない。そんな時、自分が殺人を犯したと話す若い従業員に惑わされる。一方、勤め先の薬局の主人が行方不明になったとのことで御厨冨美(みくりやふみ)が薔薇十字探偵社を訪れる。主任探偵の益田が追い続ける。これだけではない、不可思議な謎の数々。縺れた糸が徐々に絡み合っていくーー。と、まぁこんなようなストーリーである。
関口と久住が話す「忘却」について論じる場面がおもしろい。「我我は、記憶と云うものが生きていく上で必要不可欠なものなんだとーー脳に思い込まされている」という一方で「人は忘れることで何とか生きているーーとも云えるんじゃないですか」(115頁)と関口は話すのだ。何もかもを記憶してたら真っ当に生きられないということか。
やはり京極さんだ。どうでもよい話の脱線や蘊蓄が最高すぎる〜。理屈の塊みたいな中禅寺は元より、自虐癖のある関口もまた味がある。ミステリとしてのおもしろさはもちろんあるんだけれど、この蘊蓄たらたらが作品の醍醐味だ。
木場のパートはなんだか安心して読める。このシリーズでは、最初は中禅寺や榎津に憧れるのだけれど、やはり木場や関口が自分(というか読者のほとんど)に近いからか共感できるし落ち着くんだよなぁ。
そうそう、フリー素材を無料で使える「いらすとや」の「鵺」ってこれ(↓)。確かに、猿で虎で蛇。この本の表紙のイラストの鵺に特徴は似てはいるんだけど、テイストが違うとこうも変わるんだなと。これはかわいい。
次回予告として、帯の裏に次の作品のタイトルが書かれていて嬉しい限り。次巻が出る前に、シリーズ最初から読み直したいものだ。
今月末には、待ちに待った年に一度のイベント「神保町ブックフェスティバル」が開催される。昨年は初日に京極夏彦さんが来られたみたいだけど、今年はどうなのかな〜。お会いしてみたいけど、この新刊が発売されたばかりだし、騒ぎになりそうで今年は来ないんじゃないかなって気がする。