書に耽る猿たち

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『書楼弔堂 炎昼』京極夏彦/古典文学の指南書

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『書楼弔堂  炎昼』京極夏彦

集英社文庫  2019.12.28読了

 

リーズ1弾を読んだ時も思ったのだが、この小説は、文学や芸能において、昔の優れた人物や本を紹介する指南書のように思う。

作品も連作短編のような形式を取り、章ごとに人物の紹介がなされる。とはいえ、弔堂(とむらいどう)を訪れた時点ではまだ名もない人物であり、のちに著名になるのだ。弔堂に足を踏み入れて、書店主が選んだ一冊を手にした者はそうなる運命にあるかのように。章の最後に、著名になったその人物名が明かされる。だいたい途中から想像できるのだが、読者に謎解きを楽しんでもらおうという、京極さんなりの遊び心がうかがえる。

楼弔堂という書店と書店主がその舞台を作ってはいるが、全体を通した語り手は塔子(とうこ)である。塔子は祖父が怖く、逃げるように怯えるように暮らす。ひょんなことから弔堂を知る。彼女に与えられた本は『小公子』だった。明治時代は女性が本を読むことは少なく、彼女が初めて読むものだ。

ころで、『小公子』ってどんな物語だったろう。『小公女』なら『小公女セーラ』というアニメも見ていたし知っているのだが。世界名作劇場、懐かしい。よく考えたら『小公子セディ』もあった気がする…。『愛の若草物語』『アルプスの少女ハイジ』『愛少女ポリアンナ』、大好きだったなぁ。いつの間にかあのシリーズも終わってしまって残念。あのアニメから世界の名作を読み直す少年少女も多かっただろうに。

の著名人とその作品が紹介され、読んでみたいなと思う本もいくつかあった。そして、京極さんなりの本に対する考え方やウンチクもあった。けれども、なんかずっしりと入ってこない。書店主の影が薄いからかな?「京極堂シリーズ」のようにキャラが立つ個性的な登場人物がいないからか、京極さんならではの理屈っぽさが抑えられているからか…。全盛期の京極さんの作品が好きな人にとっては、物足りない、多分。