『柴田元幸翻訳叢書 ブリティッシュ&アイリッシュ・マスターピース』柴田元幸/編訳
スイッチ・パブリッシング 2023.10.14読了
愛でたくなるような美しい本だ。柴田元幸さんが厳選し自ら訳した英文学の短編傑作が12作収められている。この叢書シリーズには、姉妹編として『アメリカン・マスターピース古典編』という本があるようだ。
ひとつめのジョナサン・スウィフト著『アイルランド貧民の子が両親や国の重荷となるを防ぎ、公共の益となるためのささやかな提案』という短編にまず驚いた。まぁ、そもそもタイトルがやたらと長い。で、中身はというと、一歳になる子供を食用にするという、なんたる提言かよ…。しかし読み進めるうちに、これが皮肉・風刺が効いていて楽しい。ささやかな提案どころか強烈極まりないのだが笑。スウィフトといえば『ガリバー旅行記』しか思い浮かばず、それも子供の頃に読んだ記憶があるだけ。柴田さんが訳した本が数年前に刊行されてたはずだから読んでみようかな。
久しぶりに鳥肌が立ったのが、W・W・ジェイコブスの『猿の手』である。こんなにも強烈な余韻を残す作品があるだろうか。ホワイト氏の最後の願いとは何だったのか。「どうしても願いごとするというなら、まともな願いにしてください」と軍人に警告されたのに…。恐怖を増長させるラストに怖気がしばらく付き纏う。
私自身衝撃を受けた『1984年』の作者ジョージ・オーウェルは、ビルマで5年間警察の任に就いていた。その時の体験をエッセイにまとめており、そのうちのひとつが『象を撃つ』である。前から読みたかったので収録されていて嬉しかった。自分は本心では象を殺したくなかったのに、誰のために、何のために撃ち殺したのか。短編ながら人間の心理を深く考えさせられる。もしかしたら『1984年』や『動物農場』を読んでからでないと、作者の深い意図がわかりづらいかも。個人的には一番良かった。
読んだ中には、以前読んだ記憶がある作品が半分ほどあった。おそらく似た作品というわけではなく、柴田さん以外が訳した作品だったのだろう。どれも名作揃いであるから、何人もの人に訳されているというわけだ。また、怪奇小説が多く、英国の幻想怪奇小説好きがよく表れていると感じた。