書に耽る猿たち

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『ひとつの祖国』貫井徳郎|世界に後れを取っている日本のことを考えよう

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『ひとつの祖国』貫井徳郎

朝日新聞出版 2024.05.29読了

 

ルリンの壁のような東西を分断する「壁」こそないが、第2次世界大戦後に日本が東日本国と西日本国に分断され、その後統一されたという、ありえたかもしれない架空の日本が舞台となっている。西日本が民主主義、東日本が共産主義を採っていたが、統一後も日本の中心は西日本であり続けていた。

 

日本出身の一条昇(いちじょうのぼる)と、西日本出身の辺見公佑(へんみこうすけ)は、幼い頃からの親友である。出身が異なる2人なのに仲良くなれたのは、お互いの父親が自衛隊だったからだ。大きくなるにつれ、環境の変化が生じてしまい疎遠になる。2人の生き方が交互に書かれ、徐々にひとつに結び付く。

 

んなに簡単に今までの世界を捨てられるとは!と一条の進む方向に出来過ぎ感が否めなかった。あり得ない展開!突飛すぎるだろ!と思わなくもないが、細かいことを気にしていたら進まないので、「こういうもの」として没入することを心掛けるように読んだ。そうすると以外にも先が気になり、あっという間にラストまで。ちょっとこの最後は私的にはしっくりこないのだけれど…。まぁ、それはいいとして。もしかすると、テロ集団やなにかの詐欺集団、信仰宗教、いやいやどんな集団であれきっかけなんてほんとうに些細なことであって、いつの間にか自身も巻き込まれてしまうようなことがほとんどなのかもしれない。

 

井徳郎さんはここのところ近未来SFとかディストピア寄りの作品が多い。稀代のストーリーテリングで流れるような文章もさすがであるが、昔ほどのパンチ力はなくなっているのが残念だ。しかしぐいぐいと読ませる力はさすがであるし、経済、資本主義、格差社会について考えるきっかけにはなる。日本が先進国だったころはもう過去の話。今は何もかもが世界に後れをとっている。それを国民一人一人がしっかり認識するよう、私たちに警笛を鳴らしている。

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