書に耽る猿たち

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『仮釈放』吉村昭|更生の意味、保護司のあり方

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『仮釈放』吉村昭 ★

新潮社[新潮文庫] 2024.06.02読了

 

い先日、吉村昭さんの作品を読んだばかりだが、中毒性があるのかまた読みたくなった。本当は長崎を舞台にしたある小説を探していたが、書店にあったその文庫本の表紙が破れかけていた(こういうのはがっかりだけど、リアル書店で本自体を確認できるという良さでもある)ので、、ひとまずこの『仮釈放』を読むことにした。

 

を刺殺、妻の愛人を刺傷し、愛人の母を焼死させた罪で無期懲役となっていた菊谷史郎は、服役成績が優秀であったために仮釈放が認められた。釈放されある程度自由な生活ができても、無期刑というものは変わらない。どこにいても保護観察があり、旅行に行くにも保護司に伝える義務があり、また選挙権はない。菊谷が望んでいたような本当の意味での自由はなく、人の目を気にして生きなくてはならない。どう足掻いても無期刑というのは一生涯付きまとうものなのだ。

 

護司や働き先の上司は菊谷が改悛したと信じて疑わない。しかし、菊谷は本当の意味で罪を悔やんではいなかった。妻への憎しみは根強く残っているのだ。菊谷の心の奥にある決壊が起こると、自分でも手がつけようがなくなる。もしかしたら自分には15年もの間過ごした刑務所が落ち着く場所であるのではないか、と出所するときに感じたことが正しかったのかもしれない。仮釈放されたことは果たして良かったのだろうか…。

 

護司という人たちの存在意義について考えさせられる。罪を犯した人の更生保護という仕事に大きな意義を感じ、非常勤の国家公務員であるがボランティアであるため無給である。教誨師も同じく無償奉仕として活動する。彼らはなんのためにこれだけのことをして、そして裏切られたときにはどう思うのか。ちょうどリアルタイムで、滋賀県大津市で保護司が殺害されたという事件が報道されていたのに大変驚いた。

 

谷は、自分で大したことはないと思う出来事に対して保護司に真実を告げなかったり、何をどうしても自分の味方になってくれると思っている。最後は保護司を頼り甘えてしまっている菊谷の姿を見ると、今まで大いなる尽力をいただいたのにと、どうにもやり切れない気持ちになる。最後の場面の2人の姿が脳に焼き付いて、しばらくは余韻がすごかった。吉村昭さん、やっぱりすごい。

 

んなことも経験には勝てないし、経験が人を強くして人間力を豊かにするとは思うが、無期刑になるほどの犯罪を犯すことは経験のためとしてできることではないし、当然してはならない。だから、こういったものは小説や文献等の書物のなかから学び、考えるしかない。

 

所してもなお過ちを犯してしまう、これは立原正秋著『冬の旅』を連想した。そもそも犯罪の内容もかなり異なるが。やはり終身刑が人生を滅ぼすものであることはおおかた間違いない。それでも、保護司の役割は大きく意義深い。保護司について書かれたものを読んでみたいと思った。

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