書に耽る猿たち

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『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』 ドニー・アイカー / 謎のままのほうが風化しない

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『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相 ドニー・アイカー  安原和見/訳 ★

河出書房新社  2019.2.18読了

 

く訪れる書店で、大学生かもう少し上くらいの男性2人がこの本を前にして話していた。「これ、面白いらしいよ」その男性は買わなかったが、私は気になってしまい、なるべく見ないようにしている書評を少しだけ読んでみた。評価が高そう!ということで早速読むことに決めた。

かに納得の内容で、じっくり読んでいるつもりがどんどん頁をめくる手が進んでしまう。シンプルに面白い。ロシアのウラル山脈という名前は知っていたが、この60年ほど前に起きたディアトロフ峠事件のことは知らなかった。事実は小説よりも奇なりとはこのこと、下手なサスペンスよりも引き込まれた。3つの視点からストーリーが続く。約60年前のまさに当事者10人がトレッキングしている視点、次に事件が起きてから彼らを捜索する者たちの視点、そして現代(2012年)、筆者がこの謎に挑戦する視点。章ごとに入れ変わるのだがこの絶妙な順序が読者をわくわくさせる。たった一つでも順番が異なると受け取る印象が全く変わるという位どんぴしゃな構造なのだ。さすが、筆者ドニー・アイカーさんは米国ドキュメンタリー作家、映画監督なだけある。

れから読む人のために内容は伏せるが、筆者の最後の結論(考察)は、個人的にはいまいちしっくりこない。結局は、、、という感じ。しかし、私は思う。これだけの歳月をかけて、多くの人が科学的、法医学的、心理学的、宗教的、政治的、心霊的等色々な観点から研究を続けてもなお謎に満ちているということ、そのこと自体が人を惹きつけてやまないのだ。犠牲者やその遺族、関わりのあった人たちにとっては計り知れない悲しみと疑問があり真相解明が求められるのだが、皮肉なことに謎であり続けるから風化しないのかもしれないモナリザの微笑みもそうである。いやはや、当時の捜査官レフ・イヴァノフ が締めたこの言葉「未知の不可抗力」、これが言い得て妙である。

を解き明かすことよりも、その過程と、当時のトレッキングに励む若者達のエピソードや冒険心に胸を膨らませ、時おり挿入されている当時のモノクロ写真を見て想像してみたり、頁をめくる手が震えた。