『共喰い』 田中慎弥
集英社文庫 2019.2.17読了
第146回芥川賞受賞作。当時の会見で話題をさらった田中慎弥さん。会見の印象が強すぎて目立ってしまい、確か同時受賞の円城塔さんに申し訳なかったと後で話していたような。なんとなく手にする機会を逃していたが、たまたま先日その会見の動画を見て、この人はどんな作品を書くのだろうと気になり、書店で即座に購入した。本当は作者の顔を見ずに先入観を持たずにその作品を純粋に感じたいのであるが、今回ばかりは致し方ない。
この小説では、“血のつながり”をどう考えるかが大きなテーマである。自分自身も、両親に似ている部分は少なからずある。顔かたちが似ているところもあれば、あるところでは癖、話し方、考え方も似ていると感じる。それを人に言われると良い気持ちになる人は少ないと思う。嫌なわけではないが、どう反応していいかわからないのが正直なところだろう。主人公遠馬は、性行為の時に暴力を振るってしまうという性癖が父親から受け継がれてしまっていることにはたと気づく。それを嫌がっていたのにだ。遺伝とは、自分の意志には抗えない部分が正直あると思う。勝手に反応してしまうのだ。ただ、遠馬は今後成長していくにつれ、きっと変わっていくのだろうと思わせる。最後の展開にはゾッとした。やはり女性の方が上だな、恐ろしいなと思った。
田中さんは会見時のイメージと違い、優しい文章を書く人だと思った。結構好きな文体かもしれない。あの会見とのギャップ、田中さんは女性にもてそうな気がする。一緒に収録されている『第三紀層の魚』、これも血のつながりが重要な要素になっている。こちらが芥川賞受賞作と聞いても納得するかもしれない。