書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『日本の血脈』石井妙子/女性は強し

f:id:honzaru:20200907074902j:image

『日本の血脈』石井妙子

文春文庫 2020.9.8読了

 

井妙子さんといえば、現東京都知事小池百合子さんを描いた『女帝 小池百合子』がベストセラーになった。それも、ちょうど都知事選のさなかだったからなおのこと話題となった。本作はその石井妙子さんが過去に『文芸春秋』に2年間に渡り連載した作品を加筆し再編集してまとめたものだ。

池百合子さんという時の人を題材にしたルポタージュなら話題にもなるし売れるだろうなと、私ごときが少しうがった見方をしていたのだけれど、石井さんの書くものは綿密な取材に基づいており、読みやすい文章、そして着眼点が鋭くなかなか面白かった。

載順ではないが10人の血脈に絡んだ人物の評伝が収められている。世襲と聞いて真っ先に思いつくのはやはり皇室だろう。それに政治家、芸能界、スポーツ界、花柳界など。まさにそれらの業界の話が多い。順に、小泉進次郎さん、香川照之さん、中島みゆきさん、堤康次郎さん、小沢一郎さん、谷垣禎一さん、オノ・ヨーコさん、小澤征爾さん、秋篠宮紀子妃、美智子皇后、そうそうたる顔ぶれだ。

の人物にゆかりのある土地を著者の石井さんが訪れ、その方に想いを馳せながら調査をすすめていく。ある時はインタビューし、そしてある時は文献を読み漁る。巻末に掲載されている参考文献の多いこと、多いこと。そして「血脈」をテーマにしているだけあり、全ての人物について少なくとも三世代の家系図が載せてある。

はり総裁選が間近ということもあり、元総理大臣小泉純一郎さんの息子であり現環境大臣小泉進次郎さんの話がすっと頭に入りやすい。特にこれが一つ目の章だったから、流れであっという間に読めた。小沢一郎さん、谷垣禎一さんの章でも思ったが、やはり政治家一族という血が通ってるのだなと。次の総裁選で総理に一番近いとされている菅官房長官には、そういう血脈はないらしい。

島みゆきさんが歌手になったのはこんな経緯があったとは。あの孤独な中にも深い熱がこもったような歌い方は、父親のことを思ってだったのか。みゆきさんの章を読んでからはずっと名曲『時代』が頭から離れず、リフレインしている。

れを読んで感じたのは、やはり男性よりも女性の方が強んだなぁということ。「強い」とは物理的な力ではない。精神的な強さというか、図太さというか。今とは違って男性を陰で支えることが多かった時代ですら、影響力があるのはやはり女性で、そういう強さをしたためた女性がいてこそ、近くにいる男性は輝くのだ。