書に耽る猿たち

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『作家は時代の神経である コロナ禍のクロニクル2020→2021』髙村薫|コロナ禍でみえたもの

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『作家は時代の神経である コロナ禍のクロニクル2020→2021』髙村薫

毎日新聞出版 2021.10.23読了

 

型コロナウィルスの新規感染者が急激に減り、このまま第6波も来ないで完全に収束して欲しい。国民の誰もがそう期待し、私たちの生活は実際にコロナ禍以前の日常に少しづつ戻りつつある。

の本は、『サンデー毎日』の時評欄に2020年3月から2021年5月まで連載されていた髙村薫さんのコラムを1冊にまとめたものである。毎週書かれた時評をまとめて読むことで、日本のたどった過程がわかる。

ういった本を出す小説家は稀である。私は髙村薫さんのことを尊敬しており、彼女が書く作品を愛読しているが、小説以外を読むのは初めてだ。語られるのは小説と同様に、冷酷で凄みのある文章で切れ味鋭い。いつもながら「男まさり」の文体がカッコいい。

村さんは、コロナ禍で世界に広まっているのは「鵺(ぬえ)のような不安心理」だと表現している。鵺というのは鳥なのか?調べると「伝説上の妖怪、得体の知れないもの」という意味だそう。得体の知れない感染症、確かに。例えすらカッコいい。

のコラムが連載された期間(今に至るまで)の主な出来事は圧倒的に新型コロナウィルスなので、ほとんどの頁にコロナという言葉が出現する。サブタイトルになっているほど。

かしコロナに隠れてしまっているが重大な事件や重要な出来事も起きていた。現職国会議員夫婦の公職選挙法違反、トランプ陣営をめぐり発砲事件まで起きたアメリカ大統領選、津久井やまゆり園で19人を殺害した男への死刑判決など。そしてオリンピックと、色々とあった。

の本では政府批判が多すぎるきらいがある。確かにコロナをめぐる政府の対応は後進的であったし、国民へのメッセージが伝わりにくかった。世界からみても遅れを取っている部分が目立ったのは確かだ。ただ、日本人が自国を悪く言うのをみて良い気持ちにならない。完全に一読者の勝手な感想になるが、少し悲しくどんよりとした気持ちになってしまった。

はり髙村さんには小説を書いて欲しい。物語世界でなおその力を発揮するから。このコロナ禍で感じたことをテーマにして作品を作ってほしい。そしてそもそもこのような時評は、まとめて読むのではなくリアルタイムで毎週読むのが根本的に正しいのだと思う。その時点での現実や思いが過去のものだと実感として乏しくなり、結果論としてみてしまうから。

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