書に耽る猿たち

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『孔丘』宮城谷昌光/教えることは学ぶこと

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『孔丘』宮城谷昌光

文藝春秋 2020.11.18読了

 

秋時代の中国の思想家であり、儒教の始祖とされる孔子孔子による思想がのちに弟子たちによって『論語』にまとめられた。この本で「孔子」ではなく「孔丘」となっているのは、著者の宮城谷さんが人間である彼自身のことを書きたかったからだという。孔家の丘、「丘」というのは名前だったようだ。確かに孔子と聞くと、神様のような、聖人君子のような、簡単に触れてはいけない神格化されたもののように思える。

子、孟子は、授業で習った程度でしっかり学んだことがない。「論語」も読み通していない。ちなみに、プロ野球日本ハムの栗山監督(なんと来年で監督10年目というから驚きだ!)は、チームに入った選手には渋沢栄一著『論語と算盤』を渡すそうだ。

語を読んでみようと思い立ったわけではないのだが、書店に平積みされた表紙を見て、孔子の生涯はどのようなものか気になった。「論語」は、孔子の教えを弟子に教える様が漢文形式で書かれており、横に注釈や訳などで説明されているものが多い。読み進めるのは困難だけれど、小説になっていれば理解しやすいかもしれないと。

元前の中国のことはイメージがつかなかったが、孔丘の生涯を史実を基にして筋立てられておりわかりやすかった。もちろんフィクションだが「こんな感じだったのか」と遥か2500年前の中国を想像する。孔丘が離婚も経験していたとは。孔丘も1人の男性だったんだなぁと考えるとなんだかおかしい。

誌に連載されていたからか各章ごとにひとかたまりになり、それぞれに必ず教訓めいたものが隠れている。まるで教養書のような趣で、背筋をぴんと正さなくてはという気になる。いま当たり前にある「学校」「教師」「学問」だが、そもそも人に「教える」という概念は、孔丘が始めたらしい。

ぶということに死ぬまで貪欲であった孔丘は、生涯に渡り学び続けた。「人に教えることで自身が成長する、自身の学びになる」とは、孔丘から語り継がれた言葉なのだ。仕事でもなんでも、自分でやってしまったほうが早い。教えることは結構エネルギーもいるし正直面倒だ。しかし、なるべく積極的に教えることをしようと思った。それが自分を成長させるのだから。

にとって最良の贈り物は「ことば」であると孔丘は言う。下記に引用した孔丘のことばの意味を汲み取り、糧にしようと思う。

努力しなければ成就しない。苦労しなければ功はない。衷心がなければ親交はない。信用がなければ履行されない。恭(つつし)まなければ礼を失う。この五つをこころがけることだ。(566頁)

木賞をはじめ多くの文学賞を受賞、また紫綬勲章も2006年に受章しており、日本で偉大な作家の1人である宮城谷昌光さんだが、実は私初読みである。難しそうだしどれも長編だしと、手を出せずにいたのだ。しかしこれが杞憂に終わり読みやすかった。

らかく落ち着いた無駄のない文章が、はるか昔の古代中国へ誘う。司馬遼太郎さんが存命しない今の日本では、確実に歴史小説の最前線にいる国民的作家である。