書に耽る猿たち

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『夏の災厄』篠田節子/感染症の小説は今は重い/祝・全米図書賞受賞の柳美里さん

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『夏の災厄』篠田節子

角川文庫 2020.11.21読了

 

脳炎は、1920年代に岡山県で死者が多数発生したことからその名が付けられた。日本脳炎ウイルスを保有する蚊に刺されて発症する感染症である。今はあまり聞かないが、それでも年に10人程度は感染者が存在する。

玉県のある地域でこの日本脳炎に似た症例が多く発生する。しかし、日本脳炎とは異なる「光を眩しく感じる」「香水のような匂いを感じる」症状を患者は訴える。これは別のウイルスなのか?疑いを持つ保健センターの職員、看護師、診療所の医師たち。

ういった感染症を取り上げた作品を読んでいつも思うのが、患者やその家族、保健所や病院で働く方、マスコミ、ワクチン開発者、遠くからニュースを観ているだけの傍観者たち、それぞれの温度が違いすぎること。私たちが耳を傾けなくてはいけないのは、やはり1番現場に近い患者や家族、そして医療従事者。決してテレビや政治家じゃないんだ。

田節子さんの小説は結構読んでいるが、綿密な取材と膨大な資料の読み込みがされており、毎回読み応えのある作品に仕上がっている。そして何より文章に読ませる力があるのだ。最近の篠田さんの小説は信仰がテーマになることが多いのだが、この作品は少し色合いが異なる。感染症をテーマにした怒涛のストーリー展開が太田愛さんの小説を思わせる。

かし、ここ最近日本では新型コロナウイルス第三波ということで感染が爆発し、テレビをつけてもそのニュースばかり、ネットでも即座に目に飛び込んでくる。読みかけの本を開いても、あぁ、また感染症の話…。ちょっと陰鬱な気分になってしまう。いま読むべきではなかったかなと。いくらこの本がおもしろくても、世間に今それを伝えるのは憚られるのが心情だ。

ころで、これを読んでいる時に柳美里さんの『JR上野駅公園口』が全米図書賞翻訳部門を受賞したというニュースが飛び込んできた。柳美里さんは大好きな作家の1人なので嬉しい。しかもちょうど全米図書賞の候補に選ばれたタイミングでこの本を購入していたからラッキーだ。近いうちに読もう。

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