書に耽る猿たち

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『アウターライズ』赤松利市/東北への強い想い

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『アウターライズ』赤松利市

中央公論新社  2020.5.7読了

 

2か月ほど前に、赤松さんのデビュー作『藻屑蟹』を読みその筆致に圧倒されたので、新刊を思わず購入。どうやらこれも東日本大地震をテーマにした作品のようだ。赤松さん自らが原発の除染作業員の経験があるため、思い入れが強いのだろう。

日本大地震から10年後に、東北地方を再度地震が襲う。東日本大震災はプレートの沈み込み部分で発生する逆断層型地震だったが、これに誘発されて正断層型地震が発生。当初は第二次東日本大地震と名付けられていたが、正断層型地震の仕組みがアウターライズと呼ばれることから、この言葉が蔓延する。 東日本大地震は2011年だったから、なんと来年また震災が起きるという設定なのだ。

松さん、東北にまた震災をもたらすなんて、なかなか思い切った設定をするなぁ。宮城県河北(かほく)市がこの小説の中心舞台ではあるが、河北市という市は現存していない。河北町は昔存在したがずいぶん前に石巻市になっている。だから、もちろん架空の町が舞台である。

の小説は大きく2章にわかれている。第1章では、東日本大震災以降、アウターライズが起こるまで。登場するのは、震災を経験したことで辛い経験をした人たち。残された者は東北のために強く生きようと歯を食いしばる。彼らの生き様と想いは、赤松さんが身近で見てきたからこその現実味を帯びている。

2章では、アウターライズから約3年後の近未来の話。なんと東北が1つの独立した国「東北国」へと変貌を遂げている。アウターライズの犠牲者がたった6人であること、そして独立国になったことに不信感を抱くマスコミ関係者がその真相を暴いていくという設定だ。東北国の首相は、ミヒャエル・エンデ氏の言葉を引用してこう話す。

生涯を保証するだけの一定額が各人に与えられる。その上でね、もっと仕事がしたいかどうかは、自分で自由に選べるようにする。大抵の人は仕事をするだろう。それどころか、喜んで、自分から進んで仕事をするだろうってね。(223頁)

もエンデ氏の本は大好きで、特に『はてしない物語』がお気に入りなのだが、この台詞は何に出てくるのだろう?それはさておき、これを読んだ時に私は、以前テレビで特集されていたある企業を思い出した。その会社は賞与がかなり高く(業績に左右されず)、社長さんが言うには、社員は給料や賞与を上げた途端に以前よりよく働き、どうやったら効率よくなるか、そして会社の発展につながるか等意見も言うようになったとのこと。

と真実が少しづつ見え隠れしつつもスピーディな展開で、目を離せない。赤松さんは、こう来るか!という予想だに出来ないストーリー展開が多い。また、横道に反れたような邪悪な人間を描くのが上手い。これらも、鬼才と言われる所以だろう。

人的には第1章の雰囲気の方が好みだった。ラストはとてもしんみりして、そしてほろりとくる。東北、頑張れ!日本、頑張れ!とさらに応援したくなる。赤松さんは東北が大好きだから、風化させないためにもこれを書いたのだろう。

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