書に耽る猿たち

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『湿地』アーナルデュル・インドリダソン/北欧アイスランド発警察ミステリ

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『湿地』アーナルデュル・インドリダソン 柳沢由実子/訳

創元推理文庫 2020.12.13読了

 

イスランドは人口約35万人の、北欧に浮かぶ島国だ。35万人というのは、奈良県奈良市や、埼玉県川口市と同じくらいの人口だ。東京でいえば23区のうちの一つ北区だけで34万人である。一つの国で人口35万人がいかに少ないかということがわかるだろう。広さは日本の3分の1弱程度なので、他の国と比べて人口密度がかなり低いことがわかる。

者のアーナルデュル・インドリダソンさんはアイスランドの作家である。この人口わずかの国から、世界の様々な言語に訳されているのはすごいこと。アイスランドの作家の作品を読むのはたぶん初めてだ。首都レイキャヴィクを中心にして物語が進むが、地名と名前、性別がわかりづらいこと、わかりづらいこと。

ーレンデュルという50歳のレイキャヴィク警察犯罪捜査官が主人公。集合住宅の半地下の部屋で一人暮らしの老人が殺される。そこには犯人が残したと思われるメッセージが残されていた。犯人を探りながら炙り出される過去の出来事とある真実とはー。

リリングな捜査と刺激的な展開が、特に外国の現代ミステリ好きにはたまらないだろう。訳が良いのか、かなりスムーズに読める。犯人探しというよりも、関係者が「そうせざるを得なかった想い」みたいなものが強く感じられ切なくなる。他の捜査官にも味わいがある。エーレンデュルには子供が2人いるのだが、その関係性も歪で過去に何かがありそうだ。

欧つながりだからか、スティーグ・ラーソン著『ミレニアム』シリーズに少し似ている。特に女性への暴行描写は、1巻の『ドラゴン・タトゥーの女』を連想させる。エーレンデュル捜査官はシリーズ化されているので、続きも読むつもりだ。実は、数年前に翻訳ミステリー大賞を受賞した『声』を先に買っていたのだが、シリーズ3巻めだと気付いてあわててこの『湿地』を購入したのだ。

説をきっかけにして、世界の様々な国々を知ることは素晴らしいことだと思う。知らない地名や景色に想いを馳せながら読む。その地を実際に訪れることはなかなかないだろうけれど、少しだけ知った気になる。何かの折に地名を目にすると嬉しく思い、親近感が湧くものだ。