書に耽る猿たち

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『盤上の向日葵』柚月裕子/小説の楽しさに気付いていない人に読んでほしい

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『盤上の向日葵』上下 柚月裕子

中公文庫 2020.12.15読了

 

イトルからわかるように、将棋を題材にした作品。昨今の将棋ブームで、最近は将棋をテーマにした作品がよく売れるように思う。藤井聡太二冠の存在も大きい。

初は、当たり障りもない文章でただ読みやすいだけの小説だなぁ、、と思っていたのだけれど、いつのまにかストーリーに引き込まれていた。わかっているのに続きが気になってのめり込んでいくような感じ。柚月さん、やはり上手い。

る男性の死体が山中で発見された。しかも手には400万円以上の価値がある名駒を持って。この死体は、犯人は一体誰なのか。そして駒の意味とは。事件を追う現代の警察と、将棋に取り憑かれた男たちの生きざまが交差していく。ミステリでありながらも、人間の心理を描いたヒューマンドラマである。

のように将棋について超初心者でも、だいたいは理解できた。もしかすると、将棋に詳しい人からすると物足りないかもしれないが、裏返すと万人が読めるということ。将棋や囲碁に命を掛ける世界って本当にあるんだろうな。

けて警察ものを読んだけど、外国のものと日本のものではやはりだいぶ違う。当たり前だけど、日本の警察組織は映画やテレビドラマ、小説で取り上げられているから想像しやすい。刑事がコンビを組んで捜査するのは、海外でも同じなのだろうか。若手と、有能なベテラン刑事だけど異端の存在という組み合わせ。これもあるあるなのだろうか。

先生という言葉には、教育者という意味と、自分よりも先に生まれた人っていうふたつの意味があるのはご存知でしょう。(上巻 72頁)

トーリーには関係ない文章でひとつ引用してみた。「先生」とは確かに年長者の意味がある。「先生」という響きは私も好きだから、尊敬している年上の人に今度呼んでみようかしら、と思ったり。

月さんの小説は2冊目だが、お手本のような文章を書く人だと改めて感じる。 淀みのない綺麗な文章、完璧な構成、ストーリーのテンポ、何をとっても付け入る隙がなく誰でも楽しめる作品に仕上がっている。途中わからなくなって頁を戻ることがなく、読者に忠実で親切だ。「小説ってどこがおもしろいんだろう」と思っている人、本を読むことの楽しさに気付いていない人に強くおすすめしたい。

人的には、作家の個性が出ている文体が好みではあるのだけど、そういった作家さんは好き嫌いがある。柚月さんは間違いなくどんな人にも高水準で夢中にさせる作家さんだ。(山崎豊子さんや髙村薫さんのように深みがあればもっといいのに、惜しい!)

の文庫本には羽生善治九段の解説がついているため、最後に楽しみにしていたのだが…。ちょっと思っていたのと違った。文学評論家でも文筆家でもないから仕方ない。あれだけの棋士だからこそ人と違った視点なのかもしれない。数十手くらい先を読んで。

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