書に耽る猿たち

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『アメリカン・プリズン 潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス』シェーン・バウアー|民間刑務所の驚くべき実態

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アメリカン・プリズン 潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス』シェーン・バウアー 満園真木/訳

東京創元社 2021.2.4読了

 

メリカの人口は世界の5%であるのに、囚人数はなんと世界の25%を占めている。序章で語られたこの数字を見て驚く。確かに銃社会であり毎月のように起こる暴動やテロ、銃発砲による事件。最近では、トランプ前大統領支持者が連邦議会議事堂に乗り込み、死者まで出した銃撃事件が思い浮かぶ。

もそもジャーナリストである著者のシェーン・バウアーさんが、その身元を隠して(決して虚偽するわけではなく明かさないだけだが)刑務所で働くという行為ができるのだろうか?信じがたいが、民間企業が運営している刑務所ならあり得るのだろう。そしていざ研修が始まり、他の人たちもアルバイトのような感覚で働きに来ていることに驚く。

ウアーさんがウィン矯正センターという民間刑務所で刑務官として体験したことと、刑務所の囚人労働の歴史のようなものが交互に語られているのだが、圧倒的に体験による章の方がおもしろい。やはりノンフィクション、ルポタージュといえ、実際に著者が見たり聞いたり体験したものは、いくら綿密に調べた何事にも変えがたい、生きている文章となり読者に響くのだ。

れが現実にある刑務所の実態なのか?と驚くことばかりだ。一般囚が過ごす雑居房が44人部屋で、この部屋が8室ある棟に刑務官がたったの2人。学校ですらあり得ないのに、それ以上に罪を犯した危険とも思える人を見るのにこの人数で耐え得るのか?受刑者同士の喧嘩や自殺などのトラブルも頻発する。アメリカの公的な刑務所と比べたわけではないから何とも言えないが、読んでいて驚きっぱなしだった。

ウアーさんは、4ヶ月で刑務官を辞めた。つまり潜入捜査を終えたのだ。本当はどのくらいやるつもりだったのかはわからないけれど、刑務所で働くことに限界がきていたのだという。精神的に病んできたからだ。      

らの体験を記事にした後、アメリカ政府は連邦刑務所の契約を取りやめると発表した。州刑務所は含まれないが、それでも13の刑務所が民営でなくなったらしい。影響力はかなりあったのだ。しかしこれはオバマ政権時のことで、トランプ政権では元に戻ったらしい…。なんと…。

務所ビジネスってどういうことだろう?と疑問に思ったのと、帯に書かれた「オバマ元大統領お気に入りの本」という文句に惹かれる。去年買ってしばらく寝かせていたのだけど、こういうノンフィクション的な本は何年も経ったら時代遅れになり、読む気が失せてしまうから早めに読んだほうがいい。

てなブログで購読しているスカリー捜査官さん(id:AgentScully)のブログに、オバマ元大統領の去年のおすすめ本が紹介されていた。邦訳された本はなるべく読みたい。そしてもちろん、もうすぐ日本でも刊行されるオバマさん本人の自伝も楽しみだ。

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