書に耽る猿たち

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『リリアンと燃える双子の終わらない夏』ケヴィン・ウィルソン|親友の語りを聞いているようで楽しくなる

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リリアンと燃える双子の終わらない夏』ケヴィン・ウィルソン 芹澤恵/訳

集英社 2022.6.30読了

 

紙のイラストがとても気になって、パラパラとめくってみる。導入から自分の好みに感じたし、集英社のなめらかな字体が読みやすい。ソフトカバーであることも気軽に持ち歩ける。

性の方が書いているのかと思っていたら、男性だったとは。主人公リリアンの女性特有の気持ちがリアルで正直でほほえましい。そしてまた、ダルさ加減がおもしろくて共感でき、いつしかリリアンの虜になってしまうのだ。

リアンは学生時代からの親友マディソンからある依頼を受ける。それは、マディソンの夫ロバーツの先妻との間に産まれた双子の面倒を見て欲しいというものだった。本題である双子と生活するリリアンの話はもちろんだが、親友マディソンとの馴れ初めみたいなものがとてもおもしろい。

ッシーとローランドという10歳の双子は興奮したり動揺すると「燃える」という特異体質を持つ。いや、待って、燃えるってどういうことだろう?比喩かと思っていたら物理的に燃焼するという。炎が吹き出し、下手すると火事になりかねない事態になる。

どもは自分の想いをうまく相手に表すことができない。だからこの双子はある意味わかりやすい。燃える事態にならないのが一番だが、燃える時は子どもたちにとってなんらかの特別な気持ちの表れがある時。燃えない普通の子もなんらかのサインをどこかで灯しているのだから、そういうサインを見過ごさないことが大事だ。

バーツ上院議員の補佐役であり便利屋の「カール」のなんと興味深いキャラクターなことか!最初に印象が悪い登場人物は、最終的に好人物になることが往々にしてあり、このカールもそれに漏れない。なんだかんだリリアンたちを気にしてくれていて、素直になれず不器用な感じがいじらしくてかわいく思える。

子たちとの生活がどうなっていくのかが読みどころであるが、同時にリリアンとマディソンとの友情物語であり、また自分の人生を見つめ直す成長物語が孕んでいる。前向きに元気に、そして幸せな気分になれる小説だった。リリアンの友達に話しかけるような語り口が小気味良く入ってくる。