書に耽る猿たち

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『らんちう』赤松利市|人間の業をせせら笑いながら見つめているのだろう

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『らんちう』赤松利市

双葉社双葉文庫] 2022.7.2読了

 

んちうとは、奇形の高級金魚「らんちゅう」のこと。なんと一匹200万円もするという。調べてみると、背びれがなく、ずんぐりとした身体を持つ赤い金魚だった。金魚というと、私はお祭りの屋台にある金魚すくいの金魚、細くて小さなイメージがある。または黒い出目金。らんちゅうは、どちらかというと見た目は出目金に近いかな。

舎の老舗旅館の従業員6人が、総支配人を殺害した。自首した彼らと、旅館関係者が順番に独白していくという構成になっている。殺害動機があまりにも薄っぺらい感じがしたから、誰かが嘘をついているのかと勘ぐっていたのだが、そういうことか。

館のチェックインがQRコードによる自動チェックイン設備になったり、調理はセントラルキッチンを使い現場では誰でもが作業できるようにしたり、効率化は人手不足を補う。その分人員を減らしたり、社員から契約社員にさせられる人も多い。しかし人間の細かな手作業や人との繋がりがなくなることで、あたたかみは消えてしまうのも確か。赤松さんは、社会の不条理、特に貧困問題には警鐘を鳴らしている。

された総支配人・夷隅(いすみ)登の妻であり専務の彼女の名前は「純子」と言う。登とはお見合い結婚し、釣り合いにならないほどの美人である。赤松さんの小説で『純子』という作品がある(まだ未読)のだが、関係あるのだろうか。登が住む部屋には、大きならんちうが二匹いる。このらんちうが、人間の業ををせせら笑いながら見つめているようだ。

松さんの小説は、少し前に読んだ『ボダ子』と、一番最初に読んだ『藻屑蟹』が強く印象に残っている。どの作品も、赤松さん自身が体験されたことに基づいており似通った主題が描かれているのだが、どうしてか癖になるんだよなぁ。

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