書に耽る猿たち

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『ポラリスが降り注ぐ夜』李琴峰|台湾の方が美しい日本語で小説を書く

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ポラリスが降り注ぐ夜』李琴峰(り・ことみ)

筑摩書房ちくま文庫] 2022.6.25読了

 

湾出身の李琴峰さんは、昨年『彼岸花が咲く島』で芥川賞を受賞された。同時受賞の石沢麻依子さんの『貝に続く場所にて』がとても良かったから李さんの作品を読むことを後回しにしてしまっていた。この本は芥川賞受賞作ではないが、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞された代表作の一つである。

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んうん、なかなか好みの作風だった。石沢さんと同じくらい好きかもしれない。やはり、芥川賞を受賞された作家の本はすぐにチェックしないといけないな。この作品は、新宿二丁目にある「ポラリス」というバーに集う者たちにスポットを当てた作品で、群像劇になっており、一つ一つの短編が重なり合う。

宿二丁目は、性的マイノリティの街として知られる。夏子が店主を務める「ポラリス」は、レズビアンバー。界隈に男性同士のゲイバーが多いのに対して、女性同士が心を休める場所が少ないためにオープンした店だ。働く彼女も訪れる者も、みなマイノリティーに悩みを抱えながら懸命に生きる。

湾という外国の方だからか、日本人にはない独特の表現に唸らされる。「生国(しょうごく)」という言葉は存在するんだろうけれど、普通は滅多に使わない。言葉選びもそうだけれど、感情のおもむく先や物語の展開が独特で、新鮮な印象を受ける。むき出しの感情表現なのに繊細で脆く感じるところが過去の柳美里さんの作品に近いと感じた。

ランスジェンダーの方が繊細で傷つきやすいのは、社会が男女の二分化を基本として作られておりそもそもが生きにくい世界だから。誰でもが平等に生きる社会は、まだまだ遠い。『深い縦穴』で、路上で人生相談を受ける男は「訳のわからないことをする人も、それに乗ってくれる人もいるからこそ、世の中は面白いんですよ」と言う。いろんな個性があっていい。多数派に属さなくてもいいんだ。

国の方が日本語を勉強して日本語の小説を書き、8年足らずで日本で最高の名誉である(とは私は思わないけれど、一応世間ではそう。1番有名な賞であるのは確か)文学賞の一つである芥川賞を受賞されるなんて快挙だ。例えば数年間他国に住めば、その国の言語で会話をすることは自然と身につくだろうが、その言語で小説を書くなんて普通の人は出来ない。李さんの他の作品も読んでみたくなる。