書に耽る猿たち

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『運河の家 人殺し』ジョルジュ・シムノン|シムノン独特の文体でゾワリと怖気立つ

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『運河の家 人殺し』ジョルジュ・シムノン 森井良/訳

幻戯書房[ルリユール叢書] 2023.10.31読了

 

ジョルジュ・シムノンは、フランスの大作家である(国籍はベルギー)。ハヤカワ文庫で「メグレ警視」シリーズが新訳で復刊されているのを見て、恥ずかしながら最近になって知った。有名なのはそのメグレ警視のシリーズもの(なんと全50巻まであるらしい!)だが、これはシムノン初期の中編2作が収められた本である。

 

『運河の家』

怖かった。暗く不穏な気配がひたすら漂っていた。何だろう、この感じ。日本でいういわゆる「イヤミス」ではなく、ホラー感がより強い。両親を亡くしたエドメは叔父の家に住むことになるが、何故かエドメの行き着く先には不幸が連鎖する。読んでいて、エドメだけでなく叔父の家族らにも全く共感できない。それにしてもエドメとは一体何者だったのか…登場人物の感情が排除された文体が不気味さを増す。風景描写は、ほぼない。

 

『人殺し』

タイトル通り人殺しの物語である。医師であるクペルスは、妻と友人を殺害する。その後の日常をどのように過ごしたのかが書かれているのだが、『運河の家』に比べて不思議と明るくて殺人を犯した人物とは思えないほど滑稽さすらあった。

 

後感はどうかと聞かれたら、正直決して良くはない。ただ、この感覚はなかなか体験できないものであることは確かだ。独自の文体とストーリーからシムノン独特の味わいがある。訳者の解説によると、シムノンの文体について、直説法半過去(半過去の文をたたみかけ、ムービーのように撮影したところに突如としてシャッターが下ろされるような文章)と句読法(文節をぷつぷつと切り、短い一文をたたみかける手法)という特徴を挙げている。

 

説者はこの2作を純文学と位置付けているが、個人的にはあまりそうは感じなかった。そもそもメグレ警視シリーズを読んでいないことには何も語れないような気がする。今度読んでみたい。膨大なシリーズなので、知っている方がいたら何から読めば良いのか教えて欲しいくらいだ。

 

店でずっと気になっていた幻戯書房のルリユール叢書。大型書店でないとお目にかかることはないと思うけれど、装丁のセンスの良さに惹かれて前から手にしたいと思っていた。ただ、頁数の割にちょっと高額で。と思っていたら先日のフェスで見つけてGETした。