『人形〈ポーランド文学古典叢書第7巻〉』ボレスワフ・プルフ 関口時正/訳
未知谷 2024.01.08読了
このどっしりとした佇まいよ…。ジャケットの高貴な衣装に身を包んだ女性が座る画も、凛とした厳かな風貌で物語の重厚さを予感させる。写真だけでは伝わらないだろうけど、この本はなんと一冊だけで1,230頁もあり、重たい鈍器本だ。これはさすがに持ち運びできないからと、年始の休暇にゆっくり読むことにした。結局正月休みだけでは読み終えられなかったけど。
ポーランド文学といえば、、とすぐに思い浮かぶ作家が出てこなくてググってみた。読んだことがあるのはスタニスワフ・レム『ソラリス』とオルガ・トカルチュク『昼の家、夜の家』位かなぁ。
スタニスワフという名前はポーランドではありふれた名前のようで、この小説の主人公の名前もまさにスタニスワフ・ヴォクルスキである。古物商を営む彼が、身分違いの貴族の若い娘に恋をしてしまう。
これが一目惚れでもなんでもない。ヴォクルスキは妻と死別した46歳位の中年男性。自分は何故彼女に心を奪われたのか、本当に好きなのか、これでいいのだろうかと自己分析とともに思案する。 周りからは色々思われているが、彼はけっこう真面目な人物で、恋に翻弄されていく。
ヴォクルスキのロマンスを土台にして物語が繰り広げられるが、同時にワルシャワの都市構造などの社会問題、伝統や宗教など文化的側面にも多く言及されており、とても興味深く読み進められた。当時のワルシャワは世界で一番ユダヤ人が多かったとのことで、ユダヤ系市民と社会のあり方を考えさせられた。
古物商の店員に、老店員イグナツィ・ジェツキという人物がおり、彼の備忘録がすこぶるおもしろい。全部で38章あるうちの10章ほどが老店員の語りによる。古物商を、ワルシャワを、いや人間世界を俯瞰した彼の眼差しはおそらく著者自身のたくらみと思惑満載である。
この本は昨年の神保町ブックフェスティバルで出版社から半額で手に入れたもの。多少の傷みはあるバーゲンブック。ワゴンにあったこの本をよっこらせと取り出して(取り出すのもひと苦労)眺めていたら、おそらく未知谷の社員であろう女性が「これ、すっごくおもしろいですよ!」と息巻いていた。元々気になっていた本だし彼女の絶賛お薦めもあって、お値打ち価格で手に入れることができた。
今年も神保町ブックフェスティバルと神田古本まつりに参戦。去年大特価だった作品社のワゴンが今年はなくて残念だったなぁ…。フェスの戦利品は3冊+文房具。幻戯書房と未知谷は半額、左右社は定価4,500円→2,000円。プルス著『人形』は読みたかったから嬉しい! pic.twitter.com/MsrD6LYngd
— 本猿 (@hon_zaru) 2023年10月28日
この大作をほっぽって他の作品を読むことは私には困難だったので、結局通勤にも持ち歩くことになってしまった(1日だけ)。さすがに重すぎて若干ストレスになった。こんなに重厚なポーランドロマン文学なんだから、分冊するか文庫本になればもっと広く読まれるのになぁ。岩波書店の『ルミナリーズ』は岩波文庫から刊行されることを祈る!
↑ 355頁まで進んだ時点、まだこんな感じ!