
白水社[エクスリブリス] 2025.07.07読了
モロッコ出身で現在はアメリカに居住しているレイラ・ララミさんという方の作品である。作品も作者のことも知らなかったが、ピュリッツァー賞最終候補作になったことと本の装幀に目が釘付けになり手に取った。白水社のエクスリブリスの装幀はやっぱりうっとりするほど素敵だ。単行本なのにさほど重くないし実用的な面も良き。
ムーア人とは、ヨーロッパ側から見た、北西アフリカのイスラーム教徒の呼称(訳者あとがき 417頁)である。黒人のモロッコ人奴隷・ムスタファ(奴隷名はエステバニコ)が主人に仕え、アメリカ大陸を探検する冒険譚である。
読み始めは物語の内容も構成もよくわからなかった。ようやく、章ごとに「現在の探検」と「主人公の過去」とが交互に語られているとわかる。最初の章を読んでわからないからと本を閉じてしまうのはもったいない。徐々にこの冒険譚の語りの心地良さがじわじわと沁みてくるのだ。奴隷による語りであるのに、上質な雰囲気が醸し出されている。ストーリーもさることながら構成がなにより素晴らしかった。
流れ着いた島で多くの部族と接し、意思疎通を交わし時には温かく迎えられ、時には敵として命を狙われる。途中でいなくなった奴隷がまた別のところで姿を現したり、そんなことが果てなく続く。もはやどこをどう探検したのかわからなくなる。
語り部として話すムスタファに対し、その地にいる部族は目を爛々とさせて話を聞きたがる。これを読んでいると、今ある国々がそれぞれ形作られていったのは、こうした語り部の力が大きかったのかもしれないと思わされる。自分と違う部族のこと、生活のこと、知らないものに興味を持つことから未来は始まる。帯に書かれている「種をまく」というのはそういうことで、人間の、それぞれの部族や国が生まれ育つという意味なのかもしれない。
奴隷と聞くとみな同じような姿を連想すると思うが、これを読むと現代社会で企業に所属してへいこらしている多くの人たちもある意味では奴隷なのかもしれないと感じる。奴隷の立場からの語りということで、今年読んだ『カテリーナの微笑 レオナルド・ダ・ヴィンチの母』を連想した。