書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2025-01-01から1年間の記事一覧

『兄の終い』村井理子|自分の終いを考えてしまう

『兄の終い』村井理子 CEメディアハウス[CEMH文庫] 2025.12.18読了 小説かなと思って読んだらエッセイだった。最近映画にもなったようだ。 疎遠だった肉親が亡くなったあと、火葬や諸手続き、住居の撤去作業、そして心の整理までを余す所なく正直に綴った…

『百年の時効』伏尾美紀|ミステリーもレトロ感が好まれる今日この頃

『百年の時効』伏尾美紀 幻冬舎 2025.12.17読了 圧倒的なリーダビリティーと巧みなストーリーテリングで、分厚いソフトカバーなのにするすると読み進めることが出来た。この作品は、昭和平成令和の三時代を股にかけ、あるひとつの事件を解決しようとする警察…

『怪談・骨董』小泉八雲|なんと落語的なことよ

『怪談・骨董』小泉八雲 平川祏弘/訳 河出書房新社[河出文庫] 2025.12.13読了 朝ドラ『ばけばけ』の影響で話題となっているラフカディオ・ハーン、日本名で小泉八雲さんは、欧米に日本の文化や伝統を幅広く紹介した。多くの書店でフェアをやっており、こ…

『薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・風刺短篇集』モラヴィア|完成度の高い短編の数々に酔いしれる

『薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・風刺短篇集』アルベルト・モラヴィア 関口英子/訳 光文社[光文社古典新訳文庫] 2025.12.13読了 1956年に本国フランスで刊行されたモラヴィア著『疫病ーシュルレアリスム・風刺短篇集』には、全部で54の短編が収めら…

『ポーの話』いしいしんじ|胸が締め付けられるような物語

『ポーの話』いしいしんじ 新潮社[新潮文庫] 2025.12.11読了 胸の奥をぎゅぎゅっと締め付けられるような、どうしてか切なくて、少し苦しいような気持ちになる。いしいしんじさんの作品はみんなこうなのだろうか。 社会で疎外されているような人たち、今で…

『われら闇より天を見る』クリス・ウィタカー|贖罪と深い愛に満ちたストーリー

『われら闇より天を見る』上下 クリス・ウィタカー 鈴木恵/訳 ★ 早川書房[ハヤカワ文庫] 2025.12.09読了 13歳の姉ダッチェスは6歳の弟ロビンを守りながら強く懸命に生きる。ダッチェスは自称「無法者」と名乗る。自分には無法者の血が流れているからと。…

『ものごころ』小山田浩子|子どもが大人になりつつある過程

『ものごころ』小山田浩子 文藝春秋 2025.12.06読了 今年の2月に新刊で発売されていた短編集だ。年内には読み終えたいと思っていてようやく。物心がついたときから…という文章でしか「ものごころ」という単語を使ったことがなく、他の文でも見たこともない気…

『恐るべきこどもたち』ジャン・コクトー|裕福で自由なこどもたちは何を求める

『恐るべきこどもたち』ジャン・コクトー 村松潔/訳 新潮社[新潮文庫] 2025.12.04読了 小説ではこどもと書くときは「子ども」が多い。小説以外(特に実用書的なもの)だと「子供」になる。ここでは「こども」と全部ひらがなで表されており、よりこども感…

『夏物語』川上未映子|現時点での著者の最高傑作だと思う

『夏物語』川上未映子 ★★ 文藝春秋[文春文庫] 2025.12.03読了 これから真冬になるからちょっとタイトルと季節感がそぐわないような。けどこの『夏物語』というのは季節の「夏」ではなくて、主人公夏目夏子の物語という意味である。少し前に北陸(福井)へ…

『血痕の記憶』ジェニファー・コーディー・エプスタイン|患者を実験台にした催眠療法が行われていた

『血痕の記憶』ジェニファー・コーディー・エプスタイン 唐木田みゆき/訳 早川書房[ハヤカワ文庫] 2025.11.26読了 19世紀にパリに実在した精神病院サルペトリエールを舞台にした、史実に基づく小説である。読んだことのない世界が広がり、なかなか興味深…

『踏切の幽霊』高野和明|数十年前と現代では心霊写真の捉え方が変わった

『踏切の幽霊』高野和明 文藝春秋[文春文庫] 2025.11.23読了 小田急線の鉄道運転士による奇妙な体験が書かれたエピローグは、迫真に迫っていて一気に引き込まれる。妻を2年前に亡くした50代の松田は、女性誌の契約記者である。編集長から心霊ネタの取材を…

『定形外郵便』堀江敏幸|絵画も観るときによって感じ方が変わる

『定形外郵便』堀江敏幸 新潮社[新潮文庫] 2025.11.21読了 どうも絵画を中心とした芸術関連の話が多いなと思っていたら、新潮社が刊行する「芸術新潮」という雑誌に掲載されたエッセイがまとめられたものだった。有名な画家から初めて聞く名前まで多くの芸…

『カラマーゾフの兄弟』ドストエフスキー|再読してこの作品のおもしろさに興奮の嵐

『カラマーゾフの兄弟』1234 フョードル・ドストエフスキー 江川卓/訳 ★★ 中央公論新社[中公文庫] 2025.11.20読了 文学界に燦然と鎮座するこの名作は、学生のときに新潮文庫で原卓也さん訳を読み途中で挫折した記憶がある。その後10年以上経ってから…

『宴のあと』三島由紀夫|歳を重ねた男女の恋心

『宴のあと』三島由紀夫 新潮社[新潮文庫] 2025.11.09読了 雪後庵(せつごあん)という料亭の女主人・50歳になる福沢かづが主人公である。「かづ」という名前が時代を感じる。「かず」であれば今でも時たま目にする名前であろうが「かづ」は見ない。そもそ…

『秘密にしていたこと』セレステ・イング|家族だからこそ分かり合えないこともある

『秘密にしていたこと』セレステ・イング 田栗美奈子/訳 アストラハウス 2025.11.08読了 今年の春に読んだセレステ・イング著『密やかな炎』がおもしろかったから、著者の小説でもう一冊邦訳されているこの作品を読んだ。 ある事件が起こり、そこから過去を…

『リバー』奥田英朗|捜査本部会議での近況報告が読者を手助けする

『リバー』上下 奥田英朗 集英社[集英社文庫] 2025.11.06読了 奥田英朗さんの本を6年ぶり位に読んだ。圧巻のストーリーテリングと優れたリーダビリティで上下2巻にも関わらずあっという間に読み終えた。 10年前に起きた未解決事件と酷似した事件が起きた。…

『研修生 プラクティカンティン』多和田葉子|日々を丁寧に生き、多くの人と触れ合う|1,000記事達成

『研修生 プラクティカンティン』多和田葉子 中央公論新社 2025.11.03読了 ドイツ語で研修生のことを「プラクティカンティン」というらしい。なんか響きがいいなぁ。この小説の主人公「わたし」には固有名前は出てこなくて、文字通りこの「わたし」は書き手…

『泡』松家仁之|読み終えてから良い作品だと思える本

『泡』松家仁之 集英社[集英社文庫] 2025.10.30読了 高校に行けなくなり引きこもりになってしまった薫は、東京から離れた砂里浜という土地に暮らす大叔父の元でひと夏過ごすことになる。大叔父の兼定のパートと入れ替わりで語られるが、この兼定の視点にな…

『ソフィー』ガイ・バート|楽園が崩壊していく様が見事に構成される|ようこそ、重版!復刊!

『ソフィー』ガイ・バート 黒原敏行/訳 東京創元社[創元推理文庫] 2025.10.28読了 どういうことだろうか。姉のソフィーは弟に監禁されているのだろうか。そんな不穏な場面から幕を開ける。ソフィーは現代パートを語り、マシューは過去を語る。交互に繰り…

『皆のあらばしり』乗代雄介|歴史マニアの騙し合い?

『皆(みな)のあらばしり』乗代雄介 新潮社[新潮文庫] 2025.10.26読了 天高く馬肥ゆる秋 先日テレビであるニュース番組を見ていたら、このことわざが発せられていた。予感はしていたが、気持ちの良い秋という季節はほぼ感じられないまま冬に突入したよう…

『ヒカリ文集』松浦理英子|ヒカリとは何者だったのか

『ヒカリ文集』松浦理英子 講談社[講談社文庫] 2025.10.25読了 野間文芸賞を受賞した作品である。松浦理英子さんの本を読むのは2冊目だ。学生劇団NTRで仲間の元を去ってしまった賀集(かしゅう)ヒカリ。彼女は劇団内で多くの人と濃密な関係を持っていた。…

『蒼き狼』井上靖|50歳になったときに狼になっていたい

『蒼き狼』井上靖 新潮社[新潮文庫] 2025.10.23読了 井上靖さんの歴史モノを読むのは初めてである。いくつか名作はあるようだが、今年の6月に百田尚樹さんの『モンゴル人の物語』1巻を読んでチンギス・カンの人生に感銘を受けた(1巻はカンが40歳になった…

『紙の梟 ハーシュソサエティ』貫井徳郎|死刑廃止か存続かは結論が出ないが、誰もが考えることが大事

『紙の梟 ハーシュソサエティ』貫井徳郎 文藝春秋[文春文庫] 2025.10.20読了 これは、人ひとりを殺したら死刑になる世界の物語である こんな文章が序文にある。日本には死んでお詫びをする文化があり死刑が日本の文化として認知されているという、なんとも…

『海風クラブ』呉明益|どんなに人間があがいても自然には勝てない

『海風クラブ』呉明益 三浦裕子/訳 KADOKAWA 2025.10.18読了 そういえば呉明益さんは物語るだけではなく絵を描くことも上手だった。過去の繊細な画(『自転車泥棒』の緻密な自転車のような)ではなく、今回の表紙の画は絵の具で塗りたくったような感じ。呉…

『伸子』宮本百合子|結婚という制度にそぐわなかった二人

『伸子』宮本百合子 筑摩書房[ちくま文庫] 2025.10.15読了 宮本百合子さんの作品どころか存在すら知らなかった。17歳の時に『貧しき人々の群』という小説で脚光を浴び、天才少女といわれたそうだ。父親と渡米し、ニューヨークで荒木茂という男性と結婚、そ…

『神の子どもたちはみな踊る』村上春樹|地震のあとで、何かが生まれ変わる

『神の子どもたちはみな踊る』村上春樹 新潮社[新潮文庫] 2025.10.13読了 阪神淡路大震災後の生活(といっても直接地震を体験した人ではない)をテーマにした、表題作を含む6作品が収められた短編集である。今月から公開された映画『アフター・ザ・クエイ…

『秘儀』マリアーナ・エンリケス|不気味で不安。それでも物語の全貌が徐々に明らかになる過程に興奮が止まらない

『秘儀』上下 マリアーナ・エンリケス 宮﨑真紀/訳 ★ 新潮社[新潮文庫] 2025.10.12読了 どんな秘密の儀式が行われるのだろうか。上巻の表紙にある怪物の影が怖いし、おどろおどろしさが満載っぽい気がして読む前からぞくぞくしていた。 これは、大人のダ…

『作文』小山田浩子|嘘や脚色がある文章はどうなのか、そしてこの本のレーベルのこと

『作文』小山田浩子 U-NEXT[ハンドレッド ミニッツ ノヴェラ]2025.10.05読了 千本(せんぼん)けいすけという小学生の男の子の作文から始まる。小学校で、家族や親戚から戦争体験を聞き作文にして書くという課題。けいすけの祖父は話をしてくれなかったか…

『ハウスメイド』フリーダ・マクファデン|読むのを止められないスリリングなエンタメミステリー

『ハウスメイド』フリーダ・マクファデン 高橋知子/訳 ★ 早川書房[ハヤカワ文庫] 2025.10.04読了 刊行されたのは8月末だが、読書界隈では今でも話題になっている。海外小説なのにamazonのレビュー数も結構あって、X(旧Twitter)でも結構流れてくるから、…

『私小説 作家は真実の言葉で嘘をつく』金原ひとみ/編著|ぜひとも言語の冒険を

『私小説 作家は真実の言葉で嘘をつく』金原ひとみ/編著 河出書房新社[河出文庫] 2025.10.02読了 金原ひとみさんが責任編集をしているのはもちろんだが、ずらりと並んだ豪華な作家の名前を見て、「これは良さそう」と手に取る。作品は時代が変われば受け…