書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

□歴史書・時代物

『蒼き狼』井上靖|50歳になったときに狼になっていたい

『蒼き狼』井上靖 新潮社[新潮文庫] 2025.10.23読了 井上靖さんの歴史モノを読むのは初めてである。いくつか名作はあるようだが、今年の6月に百田尚樹さんの『モンゴル人の物語』1巻を読んでチンギス・カンの人生に感銘を受けた(1巻はカンが40歳になった…

『モンゴル人の物語 Ⅰ チンギス・カン』百田尚樹|百田さん独自の解釈がおもしろい

『モンゴル人の物語 第一巻 チンギス・カン』百田尚樹 新潮社 2025.06.10読了 出来れば全巻一気に読み通したいタイプだから、最終巻まで刊行されてから読みたいのだけれど、この本は何巻まであるかが明らかにされていない。どうしたものか。けれど元々文芸誌…

『南風に乗る』柳広司|沖縄に真摯に向き合おう

『南風(まぜ)に乗る』柳広司 小学館[小学館文庫] 2025.06.08読了 沖縄には会社の研修旅行で那覇に2回訪れたことがある。美しい海、住民の大らかでのんびりとした空気感、ソーキそばやステーキ等沖縄独特の料理を素朴に楽しんだ。初めてのスキューバダイ…

『おそろし 三島屋変調百物語事始』宮部みゆき|良い按配の怪談ファンタジーの始まり始まり

『おそろし 三島屋変調百物語事始』宮部みゆき KADOKAWA[角川文庫] 2025.04.23読了 小気味よいリズムの語り口は、時代ものといえども大変読みやすい。2ヶ月ほど前に、書店の新刊コーナーに宮部みゆきさんの『猫の刻参り』が積み上げられていた。装幀もオシ…

『源氏物語』角田光代訳|真の主役は光る君ではなく女性たちなのです

『源氏物語』1〜8 紫式部 角田光代訳 河出書房新社[河出文庫] 2025.01.18読了 日本文学最古の長編小説『源氏物語』を角田光代さん訳で読み通した。河出書房から日本文学全集として単行本が刊行された時から読みたくてたまらなかったが、ここは文庫化を待…

『逝きし世の面影』渡辺京二|外国人からみた日本はどんなだろう

『逝きし世の面影』渡辺京二 平凡社[平凡社ライブラリー] 2024.11.25読了 名著と言われているからいつか読もうと思っていた本である。この作品の『逝きし世の面影』というタイトルのなんと素晴らしいことだろう。そもそも「面影」という言葉自体に憂いがあ…

『両京十五日』馬 伯庸|中国・明の時代に詳しければ相当に楽しめるはず

『両京十五日』〈Ⅰ 凶兆・Ⅱ 天命〉 馬伯庸(ば・はくよう) 齊藤正高、泊功/訳 早川書房[ハヤカワポケットミステリ] 2024.05.20読了 なにやらスケールの大きさを感じさせる厳めしい表紙。ハヤカワのポケミス2000番という記念すべき番号にちなんだ特別作品…

『フランス革命の女たち 激動の時代を生きた11人の物語』池田理代子|ベルばらを読みたくなってきた

『フランス革命の女たち 激動の時代を生きた11人の物語』池田理代子 新潮社[新潮文庫] 2024.03.04読了 子供の頃大好きだった漫画の一つが『ベルサイユのばら』である。女子はたいていハマっていた。文庫本の表紙にある、奮い立つオスカルとそれを守ろうと…

『無暁の鈴』西條奈加|転落した人生のその先にあるものは

『無暁の鈴(むぎょうのりん)』西條奈加 光文社[光文社文庫] 2024.01.10読了 主人公の数奇な運命、転落していく物語は確かに読者を魅了し熱狂させる。人の不幸を嘲笑いたいわけでも、自分のほうがマシだと安心したいわけでもないと思う。この先、彼がどう…

『木挽町のあだ討ち』永井紗耶子|完成された物語性

『木挽町のあだ討ち』永井紗耶子 新潮社 2023.7.31読了 胸のドン突きにあるもの。胸の奥深くの突き当たりにあって自分の意志じゃどうにもならないもの。これに反する気持ちを抱こうとしても、何かが喉に引っかかったような、もどかしい気持ちになりすっきり…

『HHhHープラハ、1942年』ローラン・ビネ|ビネ自身が主人公で、実況中継するかのよう

『HHhHープラハ、1942年』ローラン・ビネ 高橋啓/訳 東京創元社[創元文芸文庫] 2023.6.17読了 本屋大賞翻訳小説部門を受賞したというのが納得できるおもしろさだった。パラパラと頁をめくると、細かい文字がびっしりと埋められ(東京創元社の文庫だし…

『しろがねの葉』千早茜|何を光として生きていくのか|銀世界を肌で感じ取る

『しろがねの葉』千早茜 ★★ 新潮社 2023.2.4読了 千早茜さんの小説は過去に1冊だけ読んだことがある。女性ならではの細やかな表現が際立ち、何よりもとても読みやすかった。しかし他の作品をなかなか手にする機会がなく。今回読んだのは、ずばり直木賞受賞作…

『黒牢城』米澤穂信|大河ミステリー、ここにあり

『黒牢城』米澤穂信 KADOKAWA 2022.4.25読了 第166回直木賞受賞、他にも4大ミステリランキングを制覇した大作である。米澤穂信さんの作品は数冊読んだことがあるが、そもそも現代モノ専門の作家だと思っていたから、歴史モノを書いたということに驚いていた…

『物語 ウクライナの歴史』黒川祐次|ヨーロッパの中心にあるウクライナ

『物語 ウクライナの歴史』黒川祐次 中央公論新社[中公新書] 2022.4.4読了 ロシアがウクライナ侵攻を始めてからもうすぐ1か月になる。日本からは遠い地の出来事で、できることは何もないかもしれないが、何が起きているかを知ることは出来る。私たちは目を…

『邯鄲の島遙かなり』貫井徳郎|イチマツ痣は永遠なり、日本に希望を

『邯鄲(かんたん)の島遙かなり』上中下 貫井徳郎 ★ 新潮社 2021.12.27読了 今年の9月から3ヶ月連続で刊行された貫井徳郎さん最大の長編小説で、執筆人生の記念碑的作品である。単行本で全3巻ととても長いのだが、読み始めると物語にガツンとのめり込み、と…

『雲上雲下』朝井まかて|古くから伝わる民話の復興を

『雲上雲下(うんじょううんげ)』朝井まかて 徳間文庫 2021.11.13読了 子供の頃にテレビで観た「まんが日本昔ばなし」を思い出した。必ずあのテーマ曲とセットだ。「ぼうや~ 良い子だ ねんねしな」という歌声とともに、竜に乗った男の子が画面いっぱいにな…

『吉野葛・盲目物語』谷崎潤一郎|中期の名作をどうぞ

『吉野葛・盲目物語』谷崎潤一郎 新潮文庫 2021.7.9読了 谷崎さんの中期の2作品が収められている。古き良き古風な日本語の文体で、一見とっきにくいのに滑らかで麗しい。2作品ともタイトルだけは知っていたが、内容は想像とかなり違っていた。 『吉野葛』 か…

『孔丘』宮城谷昌光/教えることは学ぶこと

『孔丘』宮城谷昌光 文藝春秋 2020.11.18読了 春秋時代の中国の思想家であり、儒教の始祖とされる孔子。孔子による思想がのちに弟子たちによって『論語』にまとめられた。この本で「孔子」ではなく「孔丘」となっているのは、著者の宮城谷さんが人間である彼…

『信長の原理』垣根涼介/法則にとらわれ続ける

『信長の原理』上下 垣根涼介 角川文庫 2020.11.5読了 垣根さんの小説は、文学賞三冠に輝いた『ワイルド・ソウル』しか読んだことがない。それもかなり前で、おもしろかった記憶はあるものの内容はほとんど憶えていない。最近の垣根さんは歴史小説を書くこと…

『童の神』今村翔吾/エンタメ全開の歴史小説

『童の神』今村翔吾 ハルキ文庫 2020.10.2読了 第163回直木賞は馳星周さんの『少年と犬』が受賞となったが、有力候補と言われていたのは今村翔吾さんの『じんかん』である。選考当時からこの『じんかん』気になっていたのだが、読んだことのない作家さんだか…

『現代語古事記』竹田恒泰/日本最古の歴史書は、特に神の代(神話)がおもしろい

『現代語古事記 ポケット版』竹田恒泰 学研 2019.12.14読了 美容院では、いつも雑誌は読まずに本を持参する。最近そういう人は少ないようで、昔通っていたサロンの美容師さんに言われた。その時に本の話になり、その方に薦めてもらったのが、『古事記』だっ…