『死の島』小池真理子
文春文庫 2021.3.21読了
長く文芸書の編集職をしていた澤登志夫は、定年後はカルチャースクールで小説講座を務めていた。しかし末期の腎臓がんのため講座を辞することに。元々妻子もあった登志夫だが、過去に不倫関係になった女性が原因で離婚し独身生活を送っていた。身体も不自由になった登志夫は自らの最期をどう終えようか考えるようになる。
最初は、老齢に差し掛かった男性の無気力感とわずかな色めきがついたよくある話だろうと思っていたのだが、登志夫の小説講座に通っていた26歳の宮島樹里の過去が語られるあたりから、この作品に夢中になっていた。小池さん、やはり小説を書くのが上手いなぁ。長年こうして長編を描き続けられる彼女に改めて敬意を抱く。
登志夫の家が、個人的に馴染みのある小田急線新百合ヶ丘であることから親近感が湧いた。エルミロードのスタバが懐かしいやら、小料理屋「みのわ」はきっとあの辺にあるんだろうなとか。小池さん自身が住んでいたか何らかの縁がないと、こんなに詳しく書けないはずだ。
この作品を読むと「人はどうやって死ぬのがいいのか」「どうやって最期を迎えるか」について深く考えさせられる。特に登志夫のように、身寄りもなく1人で生きている者にとっては死に際が大事である。本の帯にある「尊厳死」とは、人間の死期が近づいた時、延命のための措置を一切行わず人の尊厳を尊重することである。登志夫は一体どうするのか。人が自由に生き方を選べるように、もしかしたらこれから先は死に方も自由に選べる時代が来るのかもしれない。
アルノルト・ベックリン『死の島』
この小説のタイトルはベックリン作の画『死の島』から来ているわけだが、実は同名『死の島』というタイトルで福永武彦さんの小説もあるようだ。絵を観たいと思ってネットでググっているときにたどり着いた。福永さんの作品もすごく気になる。「死」は生きている以上永遠のテーマである。
小池真理子さんの夫の藤田宜永さんは去年亡くなられた。夫婦そろって直木賞を受賞されたスーパー作家であるお2人だが、私はどちらの作品も好きである。小池さんは今も軽井沢に住んでいるのだろうか。これからも長く書き続けて欲しい。