書に耽る猿たち

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『両京十五日』馬 伯庸|中国・明の時代に詳しければ相当に楽しめるはず

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『両京十五日』〈Ⅰ 凶兆・Ⅱ 天命〉 馬伯庸(ば・はくよう) 齊藤正高、泊功/訳

早川書房[ハヤカワポケットミステリ] 2024.05.20読了

 

にやらスケールの大きさを感じさせる厳めしい表紙。ハヤカワのポケミス2000番という記念すべき番号にちなんだ特別作品らしい。日本人って本当にキリのいい数字が好きよね、特別感を持たせたりするの。日本だけではないのかな?

 

から600年ほど前の中国・明の時代が舞台となっている。皇太子である朱瞻基(しゅせんき)の命が狙われた。皇帝に恨みを持つ誰かの陰謀か。朱瞻基は、「ひごさお」とあだ名を持つ呉定縁(ごていえん)、下級役人宇謙(うけん)、女医の蘇荊渓(そけいけい)と共に南京脱出と北京帰還を目指す。ポケミス上下巻とたっぷりのボリュームだがわずか15日間のことを描いたもので壮大な歴史エンタメ作品である。両京というのは南京と北京のことなんだね。

 

分が何者かわからない呉が、白蓮教の主導者唐賽児(とうさいじ)の語りを聞く場面には、心を洗われるような気持ちになった。ひとつの道理、世の中におけるほんとうに澄み切った至高の原理を理解した唐の説法は、救いを求める人にとっては宝となる。最初は敵とすら思っていた関係が、道中で仲間意識が芽生え同志になったり、または女性を奪い合うかのような恋模様もあって、起伏のあるストーリーが読者を飽きさせない。

 

場人物紹介の栞があるのはありがたいが、出来れば当時の地図も欲しかった!中国の近代史ならまだしも、三国志の時代に近いから地理が難解。人の名前なのか地名なのか役職なのか、単語だけでは推測できず苦労しながら読み進めることになった。私は吉川英治著『三国志』は読んだけれど、『水滸伝』『金瓶梅』『紅楼夢』等はまだ読んでいなくて、この時代の史実の下地が薄かったのがちょっと勿体なかったかも。おそらく読む人によっては相当なおもしろさになるはずだ。

 

Ⅰ巻には「凶兆」、Ⅱ巻には「天命」とサブタイトルがつけられている2巻構成だが、これはれっきとした上下巻でひとつの小説だ。実は個人的に合わないかなと思って上巻でギブするか悩んでしまったが、せっかくだから堪能しようと勢いよく(後半駆け足になりながら)読み終えた。著者の馬伯庸氏は中国では人気作家のようで、司馬遼太郎池波正太郎さんに近いそうだ。