書に耽る猿たち

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『男ともだち』千早茜|相手を思いやる純度の高さ

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『男ともだち』千早茜

文藝春秋[文春文庫] 2024.05.14読了

 

は「男女間にともだちはアリ得るのか」というのがこの作品に一本通るテーマである。ともだち、というか親友かな。2人のこの関係性を表現するぴったりの言葉がないかもしれない。敢えて言うなら兄妹のような、一生離れられない関係。

 

人公を含めてクズだらけの登場人物たち。最初は「なんなんだ、これは」って思った。これが直木賞候補になったのかって疑ってたのだけれど。読み終えたらそんな気持ちがひっくり返って、、つまり神名(かんな)の「男ともだち」ハセオにやられたのだ。何がどう刺さったのか滂沱の涙。ハセオの優しさに、ハセオとの関係性に、羨ましくも切なくもあり。

 

末に村山由佳さんの解説があると知っていて、それが見えた(解説という文字が見えたわけではなくて、なんとなく次の章のタイトルの太字がうっすら見えるような)つもりが、実は最後の章がまだ残されていた。じんわりと余韻に浸って、さぁ解説をと思ったらなんと短い終章が。たぶんこの終章なくてもいける。あってもなくても良さそう。

 

名とハセオのどうしようもないゆるさに比例するかのように、2人の関係だけはどうにも一途で、それが潔くて切ない。たぶん、人間に完璧な人はいなくて、どこかに純粋な部分が必ずある。この高い純度がこの作品の良さであり惹きつけられるポイントなのだと思う。

 

「こんな愛の形は違うんじゃないか」「これが40代50代ならまぁ、、」「かつて恋人や夫婦だった関係が良きともだちになるとかならわかるけど、健全な30歳の女ざかり男ざかりの男女がこうなるなんて」とか、まぁ言いたいことはたくさんあるわけよ。でも、希少かもしれないけれどこんな関係は確実にあると思う。

 

の自分にとってもすごく突き刺さったけれど、たぶん20代や30歳になる位だったら、人生の恋愛バイブル的な小説になったかもしれない。年齢を重ねた分だけ少し違うとかこんな風にはならないだろうとか思ってしまう。それが良いのか悪いのか。

 

年読んだ直木賞受賞作『しろがねの葉』はとてもよかった。実はそれより前に読んだ『ガーデン』はあんまりピンと来なくて、千早さんの恋愛系はどうかなと読みあぐねていた。でも読んで良かった。山本文緒さんの『恋愛中毒』を初めて読んだ時の衝撃に近いものがある。歳を重ねた千早さんがまたいつか男女の友情の物語を書いてほしいと切に願う。神名とハセオのその後の話でもいいな。千早さんが考える2人の未来は如何なるものか。

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