書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『天に焦がれて』パオロ・ジョルダーノ|ひたすらに美しい小説

f:id:honzaru:20220106075748j:image

『天に焦がれて』パオロ・ジョルダーノ 飯田亮介/訳 ★★

早川書房 2022.1.8読了

 

福の読書時間とはこのような本を読んだ時のことを言う。取り立てて何の変哲もない日に彩りをもたらす。特に夜更け過ぎ、水滴の音が響くほどの静寂の中で読み耽っていたのが最高過ぎた。本当に素晴らしい小説だった。

14歳のテレーザは、毎年夏になると、父親と一緒にオリーブ畑に囲まれた田舎の祖母の家で過ごす。ある時近くの農家に住む3人の男の子を知る。それがベルン、ニコラ、トンマーゾだ。3人は兄弟のようだが、ニコラの父親である信心深いチェーザレが、ベルンとトンマーゾを引き取り一緒に暮らしていた。

目見た時からテレーザとベルンは惹かれ合う。良い仲になるのだが後に様々な問題が発生していく。どこか危なっかしいベルン。何が彼をこのようにしたのか、過去に何があったのか。繊細で傷つきやすい、だけど狂気も秘めたようなベルンに、テレーザはのめり込む。

だ少女だった頃の出来事から小説は幕を開けるのだが、時間軸が揺らめいている。過去を振り返ったり、他の人が語るのを聞いたり、テレーザの現在進行形で進んだり。この構成が絶妙なのだ。そして、最後は収まるべきところにキチンとおさまる。

レーザをはじめとする彼らの愛憎劇にハラハラしながらも、ひたすらに美しい小説だった。究極の愛と喪失、友情、親子愛、そして信仰について描かれた物語。

んといってもベルンの人を惹きつける魅力が危うい。自然を愛し、自分を偽れず不器用にしか生きられない。人格者でもないのにこれだけ人を虜にする。また、チェーザレのあり得ないほどの包容力がこの小説を神聖なものにしている気がする。実は一番辛いのはチェーザレだと思うのに。

か足りない、違和感があるなと感じたのは、テレーザの同性の友人の気配が感じられないこと。関わる3人の男性を中心にして回っているのだ。作品として敢えてそうしているのかもしれないが。でも、それだけテレーザにとってはベルンが全てだったのだ。

説の中の登場人物が本を読んでいるシーンはよくあるが、驚いたのがテレーザの祖母が『皮膚の下の頭蓋骨』を読んでいたこと。著者名もないからピンとくる人は滅多にいないだろうけれど、実はこの本はP.D.ジェイムズさんの推理小説だ。

日読んだ『女には向かない職業』の続きでコーデリアのシリーズ。結構おもしろくて、『皮膚の〜』を数日前に購入したばかり。なんという符合!こういうのを運命的に感じてしまう、本好きあるある。もちろんベルンの愛読書のイタロ・カルヴィーノ著『木登り男爵』も読まないと。

オロ・ジョルダーノさんの作品は、以前『素数たちの孤独』を読んでとても感動した。新型コロナを扱ったエッセイはまだ読んでいないが、次に小説が刊行されたら絶対に読もうと決めていた。書店に並んでいるのを見てにんまりし、速攻手に取ったのだ。大正解だった。

honzaru.hatenablog.com