書に耽る猿たち

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『残月記』小田雅久仁|独特な世界観に魅せられる

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『残月記』小田雅久仁

双葉社 2022.1.5読了

 

の見方が変わってしまった。この本には、月にまつわる3つの中短編が収められている。巧みなストーリーテリングに感服し、本から立ち昇る不気味な様子がたまらない。こんな小説を書く人がいたなんて。小田雅久仁さんの独特な世界観にずるずると引き摺り込まれていく。

 

つ目の作品は『そして月がふりかえる』という短編である。43歳の大槻高志は、子どもの頃から月が追いかけてくるような気配を感じていた。家族で訪れたファミレスで月の裏側を見てしまい、その後どうなるか…。なんだか気持ち悪いような怖いような、まるで「世にも奇妙な物語」を観ているみたい。読み終えた時、鳥肌が立った。

作目は『月影石』という短編。このタイトルを見て、ウィルキー・コンリズ著『月長石』を連想してしまうのは私だけだろうか。澄香の伯母で今は亡き桂子は石の収集癖があり、澄香は大切な月影石を形見として受け取った。ある時石の模様が昔と変わっていることに気付く。途中からファンタジー世界に入り込んでいく。どことなくゲームの世界にいるかのようにも感じた。

作の短編を読んで、現実から置いてけぼりをくらったような感覚になる。こんな形でおしまいなの?とも思う。そして、まるで映画を観ているように、鮮やかに映像化されたものが頭の中で構築される。

 

後が表題作の『残月記』であり、前の2作と比べると長めの中編小説である。本の厚みの半分強を占める。「月昂(げっこう)」という感染症が流行った日本、それも22世紀の未来が描かれるディストピア作品。月昂者である宇野冬芽(とうが)が、愛する人を思い、生き抜いた記録の物語である。

のニ作で感じたようなファンタジー性を持ちつつも、壮大な愛のストーリーである。近未来のことだが、人を愛する気持ちは未来永劫変わらない。冬芽が瑠香に「愛している」という言葉を直接は語らないというくだりで、次のような文章がありとても深いと思った。

愛しているということは愛しつづけるということであり、愛しつづけられなかったのなら、そもそも愛していなかったということだ。(277頁)

そして、この作品のラストが美しく余韻がたまらない。震えた。

 

もそも、月には(特に満月の時には)パワーがあり神秘的である。ドラキュラや狼男は満月の時にしか人の血を吸わないという伝承もある。この本を読み終えてから「月」をまっすぐに見詰めることがちょっと怖くなるような…。個人的には一つ目の『そして月がふりかえる』が好きかな。

 

双葉社という出版社は、単行本にしては字のフォントも小さめで、頁にぎっしり詰まったように見える。しかし、意外とすらすらと読める。これは小田さんの丁寧かつ美しく繊細な文章たる所以だろう。

 

年の終わりに書店で購入したのだが、直後、タカラームさんのブログでも取り上げられていた。タカラームさんは外国文学を取り上げることが多いのだが、日本文学作品である本書を絶賛されていた。

s-taka130922.hatenablog.com