書に耽る猿たち

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『皮膚の下の頭蓋骨』P.D.ジェイムズ|濃密な描写にうっとり

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『皮膚の下の頭蓋骨』P.D.ジェイムズ 小泉喜美子/訳

ハヤカワ文庫 2022.1.12読了

 

のタイトル、なんだか不気味…。もう、タイトルだけで骸骨化した死体が登場する予感が満載。著者を知らずにはなかなか手に取りづらい。読み始めてすぐに、シェイクスピアなどの古典劇からの引用だとわかるが、読み終えた時により深い意味があることを知る。

優クラリッサの身辺警護を依頼されたコーデリアは、孤島コーシイ島に訪れる。ヴィクトリア調の古城を舞台に、殺人予告を仄めかした手紙からクラリッサを守ることができるのかー。

て、これはイギリスの女性推理作家P.D.ジェイムズさんのコーデリア・グレイのシリーズ、『女には向かない職業』の続編である。つい最近読んで、なかなか骨太でおもしろいなと思い早速購入していた。数日前まで読んでいた作品(パオロ・ジョルダーノ著『天に焦がれて』)の中にもドンピシャで登場して、これも何かの縁だと(勝手に思い)すぐにも読んだのだ。

密な描写がたまらない。ジェイムズさんは、一人一人の人物描写はもちろん、事物、景色、調度品、歴史に至るまで、かなり綿密に詳細なまでに書く。文章を読むだけでうっとりする。ただし、読むのに結構時間がかかってしまう。1時間読んだのに少ししか進んでない!みたいな。やばい、クリスティー作品が物足りなく感じてしまうかも…と変に心配になってしまう。

力的なコーデリアに引けを取らないほど、バクリイ刑事もまた良い味を出している。単純ではない事件、要はみなの興味を惹きつけて解決したときの名声を高めるのにもってこいの殺人事件を欲している彼。警察としてはまぁ見本にはならない考えの持ち主だ。けれども、私たちが凄惨でおぞましい事件を小説に欲しているのと同じかもしれない。

調高いイギリスの小説。探偵小説なのに、その濃密な文学性からかミステリであることを忘れそうになる(いや、忘れはしないか。人が死んでいて警察も出てくるのだから…)。もちろん、犯行の動機や犯人を推理する過程もおもしろいのだが、それ以上に人間性や人間関係の真の姿を探るような考察に目を見張る。特にコーデリアが、自分は探偵に向いていないのではないかと自己をみつめる場面なんて、哲学的でもある。

念なことにコーデリアシリーズはこの2作品でもって終了。邦訳されていないだけでなく、本国でも書かれていない。そもそも、ジェイムズさんはアダム・ダルグリッシュ警視シリーズがメインということを最近知ったので、次はそっちを読もう。ダグリッシュのスピンオフがコーデリアシリーズのようなのだ。

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