書に耽る猿たち

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『六月の雪』乃南アサ|台湾に行きたくなった!

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『六月の雪』乃南アサ

文春文庫 2021.6.6読了

 

湾は親日国家として知られる。一度でも台湾を訪れたことがある人は、台湾人に親切にされ、料理も美味しく居心地も良く、好きになるだろう。私もそんな1人だ。つい3日ほど前に、日本から台湾へ新型コロナウイルスのワクチン12万回分を送ったことからも、現在も双方がより良い関係を築いていることがうかがえる。

南さんの小説を読むのは久しぶりだ。乃南さんの作品はミステリ仕立てのイメージがあったけれど、この作品からは終始ほのぼのとした優しさが立ち昇っていた。時にはホロリとし、あたかかな気持ちになれる良い作品だった。

人公杉山未來(みらい)は、わけあって祖母と2人暮らし。祖母がかつて台湾に産まれ育ったことを知り、入院した祖母に産まれた街の写真を見せてあげたい、話をしてあげたいと1週間の一人旅に出る。台湾のことを何も知らない未來の視点から語られるこの本は、まるで台湾(特に台南地方)のガイドブックや紀行をまるごと小説にしたような作品である。

分くらいまでは、だらだらと続くな〜と若干感じながら頁をめくっていたのだが、徐々に台湾の人たちの真の心に触れたような気がして、後半はいつの間にかスピードアップして夢中になっていた。日本が台湾を植民地にしていた過去から本来は憎まれているはずなのに、良い日本人がいたおかげで日本時代が良い時代だったことは安心するが、その後の中国による国民党による残酷さを読むと心が痛む。

來は台南旅行の1週間で、同性の李怡華(りいか)と洪春霞(こうしゅんか)、大学生の楊建智(ようけんち)、楊のかつての先生だった林賢成(りんけんせい)らと出会い、親身になってくれる彼女らに感謝と友情のようなものを感じる。李怡華から「台湾人は日本人に比べて感情の表現をそんなにしない」と言われ、その理由にとても考えさせられた。

佐藤春夫さんの短編集を読んだ時に、台湾にとても馴染みがある人だと初めて知ったのだが、この小説の中にも出てきた。この新型コロナウイルスがなければ、台湾(以前は台北だったのでまさに台南!)に行こうかと友人と話していたのになぁ。この小説を読んで、忘れかけていた台湾に行きたい熱が出てきた。

 

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