書に耽る猿たち

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『ロビンソンの家』打海文三|小刻みな会話が軽妙で現代風

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『ロビンソンの家』打海文三

徳間書店[徳間文庫] 2022.10.8読了

 

妙な語り口の青春ミステリー風小説である。人生に早くも飽き足りた17歳のリョウは、田舎町に祖母が建てた「Rの家」で暮らすことになる。そこで出逢った風変わりな従姉妹と親戚の伯父さん。自殺したと思われていたリョウの母親の失踪とその秘密が徐々に明らかになっていく。

のぼのとした雰囲気のなか突然人が死んだり、この作品は一体どんな方向に進むのかなと思いながら読む。甘美で少し哲学的。解放的な性生活とトークが繰り広げられているがいやらしさはなく、むしろ清々しくさえある。

シリを意味する「使い走り」という言葉はよく使われるが、「走り使い」という言葉は初めて見た気がする。「走り使い」は、言いつかってこまごまとした用事をこなすこと。文字通り急いでいる「走る」意味あいがあるので、パシリとはニュアンスが微妙に異なる。日本語っておもしろいよなぁ。

ョウが作品の中でナボコフ著『ロリータ』をゆっくりゆっくり読んでいて、私も読み直したくなった。リョウの友達が「あれは少女ポルノなんかじゃなくて、半モラルの恐ろしい文学なのだ」と言う言葉にうんうんと頷ける。リョウは友達からの受け売り、読書体験のパクリと話すが、実際には著者の読書体験が土台になっているのだろう。

の小説の著者、打海文三(うちうみぶんぞう)さんのことは、この本を手にするまでは知らなかった。2007年に59歳で逝去されているが、ハードボイルド小説、純文学作品など多くの著書があるようだ。文庫本の帯に「伊坂幸太郎 歓喜」とあるが、まさに小刻みな会話が軽妙で、独特の感性が伊坂幸太郎さんの文体に近い。20年以上前に書かれたとは思えない現代風の作品に感じられた。