書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『女徳』瀬戸内寂聴|生まれながら男を虜にする性

f:id:honzaru:20220519082701j:image

『女徳』瀬戸内寂聴 ★

新潮社[新潮文庫] 2022.5.28読了

 

日、窪美澄さん著『朱より赤く』を読み高岡智照尼の存在が気になったのでこの本を読んだ。智照尼のことをもっと知りたくなったのだ。これも小説ではあるが、ほぼ真実に近いとされている。新潮文庫の寂聴さんの本のなかでは一番分厚く、フォントも小さくなかなかのボリュームだったが、智照尼の重厚で濃密な半生が寂聴さんの力強い筆致で書かれており、どっぷりとその世界を堪能できた。

 

子が祇王寺(ぎおうじ)を初めて訪れた時、仕える和三郎を佐助のようだと思った。むろん、谷崎潤一郎著『春琴抄』の佐助である。春琴と佐助の愛。日本の小説で最も尊く美しい関係性の2人の名前が出てきた。それだけで泣きそうになる。

 

王寺で自死した友人を弔うため亮子は祇王寺を訪れる。庵主・智蓮尼(ちれんに)は彼女の半生を亮子に語り続ける。この小説で智蓮尼というのが、高岡智照(本名高岡辰子)のことである。最後まで智蓮尼の語りで進むわけではなく、現代の亮子のパートを織り交ぜながら構成されている。亮子と一緒に女性読者も自身の経験と女の業を考えながら時に感情移入しながら読み進めることになる。

  

美澄さんの先の小説で読んでいたから、ストーリーは頭に入っていた。智蓮尼の波瀾万丈な半生はなんと情熱的で危ういことか。指詰め事件も自殺未遂も、彼女がその時々で愛に一途過ぎる。類い稀な美貌を備えたたみ(智蓮尼)は、多くの男性を虜にしそして自らも男性に捧げる。もう男に頼らないと生きてはいけないほどに。

 

年も婚姻関係にあった木田という元夫のなんと嫌味で虫唾が走る人物であることか。破綻した夫婦生活のなかでも、ある時たみは子供が欲しいと思い木田を誘う。心では嫌っていても身体は別物で嘘はつけない本性に強い生命力を感じる。

 

右衛門は智蓮尼のことを「浮世にあきたら、さっと頭まるめて尼になって、色気ぬけてもまだ、大の男がなんぼうでも奉仕者になってあらわれる。生まれながらの人徳やのうて、これこそ女徳ですわ」と言う。いわゆる「魔性の女の子」だ。

 

戸内寂聴さんに波瀾万丈に生きる女性を書かせたらやはりピカイチだ。約40歳で仏門に入り大往生を遂げた智照尼の生涯は、寂聴さんのそれに重なるものがある。評伝『かの子僚乱』もおもしろかったから、『田村俊子』『美は乱調にあり』も読みたい。

honzaru.hatenablog.com

honzaru.hatenablog.com

honzaru.hatenablog.com