書に耽る猿たち

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『かの子撩乱』瀬戸内寂聴/溢れ出る生命力

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『新装版 かの子撩乱』瀬戸内寂聴

講談社文庫 2020.8.29読了

 

井上荒野さんの『あちらにいる鬼』を読んで、瀬戸内寂聴さんの小説を読みたいと思っていた。本当は代表作『夏の終わり』を先に読もうとしていたのだが、本屋でパラパラ見ていたら講談社文庫から刊行されているいくつかの新装版が目に留まる。寂聴さんの小説といえば自らの恋愛を題材にした私小説のイメージだったが、本作品のような伝記小説もあるようだ。

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乱万丈な岡本かの子さんの生涯。かの子さんは、日本を代表する芸術家・岡本太郎さんの母親である。大阪万博の「太陽の塔」で有名な岡本太郎さんの名前は知っていても、彼の両親のことを知る人は少ないだろう。私もほとんど知らなかった。芸術家を産み出した両親も、やはり同じく芸術に生きる人物であった。父親の岡本一平さんは漫画家、かの子さんは歌人であり小説家である。

の子さんがどのようにして日本の文壇に名を馳せるようになったのか。彼女の厚化粧、派手な装い、豊満な肉体がどのように形作られたのか。自由奔放なわがままさと情熱が人を虜にする。かの子さんの実際の歌や小説を引用しながら、寂聴さんが見事な評伝に仕上げた。

常人では理解できない不思議な愛が、一平とかの子の間には生まれてきていた。(326頁)

の子さんが注目されたのは、彼女が生み出す作品だけでなく、その恋愛関係によるところも大きい。夫の一平公認の元、年下の男性を一緒に住まわせたりした。それも1人ではない。写真を見ても決して美人とはいえないかの子が、何故男性を虜にして離さなかったのか。この作品を読むと、その理由がわかる気がする。生きることに、芸術に、これだけ命を注ぎ込み輝いている人間はなかなかいないと思えるのだ。

は寂聴さんの本は、年齢を重ねた故の人生論を説いたようなエッセイしか読んだことがなかった。この作品は、予想以上に読み応えがありどっぷりと楽しめた。宮尾登美子さんの筆致を思わせるほど、丹念に積み重ねられた言葉の連なり。こうなると今度は、岡本かの子さんが書いた小説が読みたくなる。読書は無限のループだ。