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『失われたものたちの本』ジョン・コナリー|子どもの心に戻り夢中になれるファンタジー

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『失われたものたちの本』ジョン・コナリー 田内志文/訳 ★★

東京創元社創元推理文庫] 2023.9.10読了

 

ラスチックゴミ削減のために、スーパーやコンビニのビニール袋が有料になってから結構経つが、最近は削減のためというよりも、節約しようという思いが先にきて本来の目的を忘れている。まぁ、それでも結果削減になれば良いという国の思惑は間違っていない。でも、便乗して紙袋や割り箸、スプーンなんかも有料になっているのはなんだかなぁと思う。

 

の前、5,000円以上購入すれば紙袋が無料で貰えるという書店にいた。あと300円ほどだったので「どうせならあと1冊何か買うか」とレジの近くにあったこの本(宮崎駿さんの映画の下敷きになっている?とのことで気にはなっていた)をさくっとカゴに入れた。そんなきっかけだったからそれほど期待はしていなかったのだが、これが大当たり!とても心に残る良作だった。

 

分の中で決まりごとを作りそれを忠実に守る。これって子供の頃に私自身も課していた。デイヴィッドは母親の無事を祈り、何かと偶数を大事にする。壁に頭をぶつけて回数が奇数になってしまったらもう一度頭をぶつける、とか。私の場合は「横断歩道を渡るときに白線しか踏まない」を意識していた。勝手に決まりごとを作り、それを守れなかったら何か悪いことが起きてしまうと変に信じていた。今思うと自分の行動で運命が変わるわけはないのに。そして、、デイビッドの母親は亡くなってしまう。そんな折、いつしか本の囁きが聞こえるようになったデイビットは、幻の王国へと足を踏み入れてしまうのだった。

 

い込んだ世界では自分の味方になる人、敵となる人、多くが登場する。「木こり」が、そして「ローランド」は、デイヴィッドの旅における、また人生の道しるべとなる。彼らの語るいくつもの物語も、作品に深みを増し奥行きをもたらす。

 

って威圧的な白雪姫、狡猾だけれどどこか憎めない7人の小人たち。かつて読んだことのあるような、聞いたことのあるようなものがこの王国には出てくる。果たしてデイビッドがは空想世界に入り込んでしまったのか。元の世界に戻ることはできるのだろうか。

 

ーランドが語る言葉がデイヴィッドの胸に何度も響く。「人を失う恐怖に囚われてしまうあまり、彼らが生きている現実を心から享受できていないのではないかと自分を疑うんだ」(276頁)死の宣告をされた肉親を失うのを恐れるあまり、最期の時を心から楽しめない。多くの人がこんな気持ちでいるだろう。しかし、それは実は自分よがりだ。相手のことを思えばこそ相手と共有する時間を楽しまなくてはならない。

 

がままでぐずぐず泣いていたディビッドがどんどん勇敢になり成長していく。困難や恐怖を乗り換えていくうちに、相手の気持ちになろうとする。自分の頭で考え行動するようになる。ダークでエグい描写も多いのだけれど(本当は映画化して欲しいけど、この世界観を表すのは難しいかなぁ)、物語としてめちゃくちゃ楽しくそして心が浄化された。

 

ァンタジー小説を読むと、ストーリーや設定がおもしろかったとしても、どこかで現実的ではなく、あり得ないこと、夢の中の話だと俯瞰した冷静な自分がいる。多くのファンタジー作品でこのような気持ちを抱くのだけど、この本は違った。自分もその世界に迷い込んでしまったかのよう。要は、子どもの心に戻れるかどうかなのかも。また、誰かに物語を読んでもらっている感覚だった。小さい頃にテレビで見ていた日本昔ばなしの語りを聞いているような感じ。敬語で語られるこの柔らかな、しかしどこか客観的な物言いに懐かしさを憶えた。

 

の本、表紙だけ見るとエドワード・ケアリーの小説かと勘違いしてしまう。だって名前もコナリーとケアリーで似ているし、表紙の感じもそう、創元推理文庫だし。エドワード・ケアリーとエドワード・ゴーリーも似たような画だから勘違いしやすい。

 

れにしても、本にまつわるファンタジーは、児童向けの作品の方がより一層気持ちが入る。エンデ著『はてしない物語』なんてその極み。ハリー・ポッターもそう。物語世界を、魅惑的な幻想的な世界を堪能できた幸せな5日間だった。

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