書に耽る猿たち

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『湖の女たち』吉田修一|異質だと思っていたものがそうではなくなる

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『湖の女たち』吉田修一

新潮社[新潮文庫] 2023.9.5読了

 

田修一さんの小説を読むのは久しぶりだったけれど、やはり文章もストーリーも淀みなく上手いなぁという印象だ。作品としては『悪人』や『怒り』には到底及ばないがさすがの筆致で読ませるものがある。

 

護療養施設「もみじ園」で100歳の寝たきりの男性が亡くなった。人工呼吸器停止による不審死事件である。一体誰が何のために。施設に勤める豊田佳代と、事件を追う刑事濱中圭介をメインにして現代社会がはらむ様々な問題を提起していく。

 

代の年齢や顔かたちが何故か全く想像できなかった。一見真面目でおとなしそうな人物描写だったのに、佳代の変貌に驚く。圭介も一体何を考えているのか。この2人には全くもって共感できない。それでも、先が気になってしまい、インモラルな関係に、その描写に惹かれてしまう。2人を異質なものとは捉えず、人間誰しもが彼らのような性癖を持つのかもしれないと、徐々に気付いていく。

 

件を解決するのは思いもかけない方向からだったのが予想外だった。過去の吉田さんの作品からは想像だにしない展開と読後感だったので、著者名が伏せてあれば同一人物が書いたとは気付かないんじゃないか。

 

庫本の解説が画家なのが珍しい。作家や書評家など文筆業に携わる人であることが多いのに、風景や色彩に重きを置いた読み方をしているのが斬新だった。普段字面を追ってばかりの人の感想や考察は通り一辺倒になることが多々ある。私もそう、いつも同じことばかりブログに書いているように思う。本だけではなく、良い景色を見たり、映画や音楽、舞台に触れ、多くの人たちと関わり合いを持ち、多角的に物事を見るようにしたい。

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