書に耽る猿たち

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『Schoolgirl』九段理江|動画配信を文学で表現するという斬新さ

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『Schoolgirl(スクールガール)』九段理江

文藝春秋 2022.2.15読了

 

月発表された第166回芥川賞受賞作品は、砂川文次さんの『ブラックボックス』である。それを読む前に、候補作の一つだった『Schoolgirl』を先に読み終えた。書店で最初の段落を読んでみて、こっちのほうが妙に気に掛かってしまったのだ。

日まで昭和初期の石原慎太郎さんの純文学を読んでいたから、現代に急遽引き戻された感が強い。若者が受賞することが目立つ芥川賞は、そもそも新しい文学を提唱しているのかもしれない。この時代にこの文学が確かに存在したという証とするためにも。

 

学生社会派YouTuberの娘を持つ母親の視点から書かれた物語である。自称功利主義の娘は、反抗期なのか母親に不遜な態度をとる。母親は文学好きで娘は文学嫌い、そして母親のことを小馬鹿にしている。母親は娘のことが気になって気になって仕方ない。  

ールやLINE、Twitterなどの文章が小説の中に出てくるのは最近増えているが、YouTubeというのはなかなか新鮮だ。生配信で流れる動画を文章で、言葉だけで表す新しさがある。娘は、母親に見られることをわかって発信しているわけで、いやむしろ母親に見てもらうために流しているかのよう。娘もまた、母親が気になるのだ。母と娘の切り離せない独特の関係性がお互いの価値観の違いと相まって興味深い。

Schoolgirlとは女学生、女生徒の意味。そもそもSchoolとgirlの間は空けるものかと思っていたらひとつの単語になっているのか。太宰治さんの『女生徒』から着想を得たものだそう。この『女生徒』を通して小説を通して母娘は結びつく。母親は過去に読み、娘は母親のクロゼットから本を見つけて読む。

章自体は平易なのに、独創性のある文体だと思った。一読しただけではなかなかわかりにくいのは、私が太宰治著『女生徒』を読んでいないからだろうか。 

 

念ながら芥川賞受賞とはならなかった。確かに、万人どころかこの世界観を理解できる人はごく僅かなんじゃないかと思う。それでも、平野啓一郎さんから「イチオシ」というお墨付きをもらうなんてそれだけでも価値があると思う。

時に収められている『悪い音楽』は九段さんのデビュー作で文藝界新人賞を受賞した作品だ。こちらのほうが読みやすく、入ってきやすいとおもう。それにしても九段さんは中学生というお年頃が大変気になっているようだ。