書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『夏の騎士』 百田尚樹 / 子供の頃にはわからない大切なこと

f:id:honzaru:20190802231012j:image

『夏の騎士』 百田尚樹

新潮社 2019.8.3 読了

 

43歳の遠藤宏志が、小学生の頃のひと夏の思い出を回想するストーリーである。読み心地は、さすが百田さん、抜群に良い。誰もが読みやすく、誰もが読了後には爽快な気持ちになると思う。

に男の子であればほとんどが、子供の頃、「騎士」「侍」「英雄」に憧れを抱く。言葉の意味を大して知らなくても、何となくカッコよく感じ、意味を知ればなおさらだろう。騎士団を結成する宏志、健太、陽介の3人もそんな子供達だ。どちらかといえばクラスの劣等生である彼らが、騎士団を結成してから大きく成長していく。この小説の中には、大切なメッセージがたくさん散りばめられている。

剣は敵を倒すためのものだが、盾は敵から身を守るためのものだ。人生は攻撃するよりも守るほうがずっと困難で、しかも大切だということは、大人になって学んだことだ。(70頁)

月を得た今になってわかること、大人になってようやくわかることも、子供の頃にはどうしてだか絶対に理解できないのだ。しかし、この本を読んで、ほんの心の片隅に、少しでも気に留めておいて欲しい大事なメッセージがたくさんある。特に小中学生に、この夏休みに読んで欲しい。もちろん、大人にも読んで欲しい。最近思うのは、大人になってから読む児童文学や絵本の、なんと奥深いこと。

田さんの小説は、『カエルの楽園』あたりから、読むターゲットの年齢を下げているようだ。これからの日本を担う若者たちにより読んで欲しいからかもしれない。個人的には囲碁の世界が繰り広げられる『玄庵(げんなん)』が好きだ。専門的な知識が豊富で、ページをめくるのに、少し時間がかかりそうなものが好みなのだ。でも、きっと若い人たちにもっと本は読まれるべきだ。だから、簡単な言葉で簡単な文章で読みやすく、その中により強い大切なメッセージを伝えられることが大事である。