『世界地図の下書き』朝井リョウ
久しぶりに朝井リョウさんの小説を読んだ。もしかすると直木賞受賞作『何者』以来かもしれない。私の中で朝井さんは、小説界の「時代の寵児」というイメージだ。
両親を事故で亡くし、児童養護施設「青葉おひさまの家」で過ごす太輔(たいすけ)と、同じ養護施設の子供たちの数年間が描かれている。何らかの理由でここに住む彼らは、目に見えない心の傷を負っている。しかし、ここに登場する彼らは希望に溢れている。
麻利は強くなっている。だからもう、人の嘘だって見抜けるし、自分で嘘だってつける。(128頁)
嘘をつくのが悪いこととは限らない。嘘がつけるようになるのもまた成長したということ。小学校低学年から中学卒業までの期間は、人生の中で身体も心も一番成長する期間である。その期間を彼らは家族の元ではなく施設で暮らす。そういう人が少なからず世の中には存在していて、実は身近にもいる(いた)かもしれない。
この『世界地図の下書き』は坪田譲治文学賞を受賞している。児童文学の枠を超えて子供から大人まで読める本が対象となっているが、できればこの本は小中学生に読んで欲しいと思う。子供目線で書かれているためか会話文、感嘆文が多いが、その分純粋で真っ直ぐな気持ちがぶつかり合いダイレクトに心に入ってくる。
朝井さんの文章は流暢でするすると読みやすい。本当は柴田錬三郎賞を受賞した『正欲』がとても気になっている。早く文庫にならないかなと心待ちにしている。