書に耽る猿たち

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『車輪の下』ヘルマン・ヘッセ/悲劇なのに清々しい気持ちになれる

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車輪の下ヘルマン・ヘッセ  高橋健二/訳  ★★

新潮文庫  2020.4.29読了

 

界の古典名作を読もう、ということで『車輪の下』を読んだ。ヘッセ氏の作品は10代の頃に読んだ記憶があるが、何を読んだのかどんな話だったか全く覚えていない。この作品は、ヘッセ氏の2番目の長編で自伝的小説と言われている。なんとまぁ、心に訴えかける素晴らしい小説だった。

ンスという、父子家庭に育ったが大変な努力家でエリートの少年が、神学校への試験にパスし寮に入り勉学に励む。しかし、そこで起きる様々な出来事、おとなたちの締め付けによりハンスの人生は転落していく。悲劇の物語であるが、読んだ後には清々しい気持ちになり、勇気と希望を見いだせる。

で同じ部屋になるハイルナーとは堅い友情で結ばれたかに思うが、それが砕けてゆく過程がなんとも痛ましい。仲違いをして数日後、たまたまハイルナーと隣同士になり手を差し伸べるが、手を引っ込められてしまう。

彼は、人の忘れることのできない、またどんな後悔も償うことのできない罪や怠惰のあるということを悟った。(133頁)

少年期にこんな風に気付ける人は滅多にいない。こんな感情を抱くのはたいてい大人になってからだ。ハンスは神学校で、勉学以外の多くのことを学ぶ。

ンスの心情描写もそうだが、自然と触れ合う時の表現もとても繊細で美しい。ドイツ文学はもう少し骨太なイメージがあったのだけれど、ヘッセ氏の表現は折れてしまいそうなほどやわく、それでいて瑞々しい。壮大な叙事詩のようで美しい。ハンスの思春期の感性を見事に捉え、わすが260頁の作品ながら、少年の成長過程と変化が大きく感じられる。

折挿入される、著者が読者に語りかけるような思想や哲学。まるでトルストイのよう。そして、この小説のタイトル『車輪の下』という単語が出てくる場面には、何故だかぞくっとした。

んなに優秀な子供でも、過度な期待を抱いたり勉強漬けにするとどうなるか。東大生なんてこれを読むと考えさせられるかもしれない。先日読んだ『銀河鉄道の父』ではないけれど、叱りつけて閉じ籠めるのではく、子供の特性を活かし尊重しながら、のびのびと育てることがいかに大切なのかがわかる。

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 ルマン・ヘッセ氏はドイツ生まれのスイスの小説家で、1946年にノーベル文学賞を受賞している。やはり、1冊読んだだけでも類い稀なる素晴らしい作家であることがわかる。解説にあるヘッセ氏の生涯をたどると、なおのこと興味が湧く。

ッセ作品は昔読んだ気になっていたけど、ちゃんと読み通せてなかったのかもしれない。読んでいて心が震える読書体験が出来る。次は『デミアン』か『シッダールタ』かな。早く読みたい。ヘッセ氏の作品をこれからもたくさん読めると思うとこれもまた幸せ。