書に耽る猿たち

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『大きな鳥にさらわれないよう』川上弘美 / 目に見えない大事なものを表現する

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『大きな鳥にさらわれないよう』川上弘美

講談社文庫  2019.11.4読了

 

上さんの小説を読むのは久しぶりである。本当は、新刊の『某(ぼう)』が気になっているのだけれど、とりあえず文庫になったばかりの本作品を読むことにした。

思議な読後感である。連作短編集のような形を取っており、全て語り手やストーリーも違うのだが、全体を通してみると登場人物が重なっていて、すとんと1本通っていることがわかる。川上さんの独特の空気感がまたしても健在だ。ふわふわと宙に浮いているような、それでいて少し怖い感じがするような。

から数百年後、数千年後の世界を描いた物語。人類のような存在がまだいるのだが、暮らし向き、文化、生存方法は大きく異なっている。特に、生殖方法が違う。現代のような愛だの恋だの、煩わしさは一切なく、まるで動物のように、息をするような営みである。「はるか昔は違ったのよ」と、まるで神話のように話されるのは、現代のこと。私たちが昔の話をするように、はるか未来の人類が私たちのことを話す。

この時代、この瞬間に私たちが生きていることは、地球の歴史からみたらほんの1㎜の長さにも満たないんだろう、そんな風に思えた。小説としてはそういうテーマではないのだけれど、私はスケールの大きな話だと感じたのだ。

後の章に出てくる、「気配」という存在。レマは、気配から色々なものを教えてもらう。気配は元々人間だったこともあるらしい。川上さんは、目に見えないものを描くのがとても上手いと思う。見えないものだからこそ、文章にして表現する価値がある。私たちが生きていく上で本当に大事なことは、半分以上目に見えないものだと思うから、それを言葉、文章に出来ることは素敵なことだ。