書に耽る猿たち

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『ソラリス』スタニスワフ・レム|3つの問題意識を読み解けるか

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ソラリススタニスワフ・レム 沼野充義/訳

ハヤカワ文庫 2021.10.6読了

 

年はポーランドの作家スタニスワフ・レムの生誕100年になるという。先月、国書刊行会から『インヴィンシブル 』が新訳で単行本として刊行され、かなり売れているというから、日本でも人気があるということが頷ける。

ソラリスの謎は深まるばかり。ソラリスを観察するステーションに降り立ったケルヴィンは、異様な雰囲気に戸惑う。先陣として到着していた学者たちの様子もどこかおかしい。一体何が起きているのかー。

球以外の惑星への接触(コンタクト)をめぐるSF小説であるが、今までに読んだことがない類の作品であった。SFといえば科学や物理的な視点で繰り広げられるが、この作品から立ち昇る壮大さはもはや哲学書のような形相を帯びている。ある部分ではソラリス学の思想家たちの伝記のようで、またある部分ではラブストーリーのような印象を受けた。

「私たち人間の目に見えるのは、目の前で、いまここで起こっていることだけだ。目に見えるものは実は全体のプロセスのほんのひとかけらである」と文中で述べられている。確かに我々は、人間そして地球を大前提にして物事を判断し想像してしまうが、宇宙はもはや誰にも想像だに出来ないものなのではないか。人間の知性や人類の理性を覆えすような、価値観・世界観を変える作品であった。

は、私にとっては一読しただけでは到底理解に及ばなかった。なかなか困難な作品なのである。訳者による解説を読み、SFに詳しい心理学者丹野義彦氏の見解がすんなりきた。この小説での問題意識は「起源の問い(世界や自然はなぜかくあらねばならないのか)」「存在への問い(人間とは何か)」「認識への問い(科学)」の3点にあるという。なるほど、この問いを念頭におくと小説世界にも入りやすいかもしれない。レム自身の解説が巻末に収録されており、彼の信念と矜持のようなものがうかがえた。

誕100年を記念して、文庫本のカバーも限定となっている。写真だとわかりにくいが、3Dハガキのように角度によって光が反射してとても綺麗な具合だ。すぐれた装丁はもちろん手に取るきっかけになる。長い読書人生で必ず一度は手に取るべき作品なので、この機会に読むことができて良かった。

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